真剣度のレベル

 この1年、夫の夜の飲み会は激減した。以前は週2、3回あったが、2020年は1年で2、3回だった。だから期待していた。人間ドックの結果を。
 夫は中性脂肪の数値が非常に高い。理由としては一般には「食べすぎ、飲みすぎ、運動不足」があげられるが、お酒が好きで飲み会も大好きな夫の場合は「飲みすぎ」が最大の原因である。健康診断の際に必ず指摘され、そのときは「休肝日」を設けようなどと反省するが、その約束を守り続けることはむずかしい。妻としては、家での食事は健康的にと心掛けてきたが、家の外の行動までは口出しできないでいた。しかし、夫は前期高齢者と呼ばれる年齢になった。何か起きたら、介護するのは誰? 私しかいない。このままでいいのだろうかと真剣に考え始めた。
 そんなときに新型コロナウイルス感染症が全世界を襲った。夫は飲み会を自粛せざるをえなくなった。しかも1年以上も。さぞかし、人間ドックの結果は改善されているだろうと期待していたわけだ。

 ところが。中性脂肪の値は1年前よりも悪化していた。「なぜー……」とがっかりする私に、夫は言う。
「健診の医師が言ってたけど、この自粛やテレワークで運動不足になり、検査結果が悪化する人が増えているんだって。それに、家で飲むということで帰る心配がないから、外の飲み会より酒量が増えるらしいよ」
 夫はテレワークではなく週4日は会社に行くが、そういえば、コロナがはやり出したころ、ジムをやめてしまった。月に3回か4回の運動であっても、効果があったのかもしれない。家で毎夕食時に飲むビールやワインがそれほど多いとは思っていなかったが、そういえばワインのボトルを捨てる機会は増えた。料理は、野菜を多くバランス良くと気を配っていたつもりだが、そういえば、大皿でどんと出していたから、食べ過ぎていたのかもしれない。
 思い返すと、「そういえば」と思い当たることが多いのに気づく。
 今後の生活の平穏のためにも、中性脂肪の値を下げることに真剣に取り組もう。もちろん夫も異存はない。
「酒は禁止」などという極端な対策は現実に即さないため、1日のアルコールの適量が「ワイン200㎖、焼酎90㎖」などと書かれた表をネットで見つけ、壁に貼った。夫はそれを見ながら、晩酌の量を調節する。時には休肝日を定め、時にはちょっと緩く、ではあるが。私は、大皿を封印し、それぞれの皿に分けることにした。そして、何を食べたかを毎日記録し、食材のバランスを見ながらメニューを考える。

 10日ほど過ぎたころ、知人女性から久しぶりにメールが届いた。喜寿を迎える彼女は、夫の健康維持のため、日に3度の食事メニューに常に頭を痛めている毎日だそうだ。同年代の知人から訃報が多く届き、自分たちにいつ何が起きても不思議ではないと綴るメールからは、張り詰めた思いすら感じられた。
 わが家はまだまだ甘い。こんな取り組みで「真剣」という言葉を使っていたのが恥ずかしくなった。しかし、この年代なりの真剣さというのもあるだろう。まずは3か月後の血液検査での改善を目標に続けよう。