エッセイ脳-800字から始まる文章読本

『エッセイ脳-800字から始まる文章読本』(岸本葉子著 中央公論新社 2010年4月10日発行)をご紹介します。この本は、後にタイトルを変えて文庫化されていますので、『エッセイの書き方-読んでもらえる文章のコツ』(中公文庫  2018年8月21日発行 )のほうが手に入りやすいかもしれません。

岸本葉子さんは、エッセイストです。エッセイを書くことを生業にしている方です。
たとえば芸能人の書いたエッセイであれば、その人の生活ぶりや活動そのものに読者は興味を持つでしょう。もし学者であれば、研究内容にかかわるユニークな題材を豊富にもっていそうです。
特別な題材や専門分野を持たない岸本さんは、ふつうの生活の中から題材を探し出し、読者が読みたくなるように、「読みやすい文章」を書く努力をし、工夫を重ねてきたそうです。

趣味でエッセイを書いている場合、次元は違えど状況は同じです。珍しい題材はそうそう持ち合わせていません。日常の話題からネタを拾い出し、エッセイに仕上げることが多いでしょう。その意味で、本書はたいへん勉強になります。

第1章では、エッセイをこう定義します。

自分の書きたいこと」を、「他者が読みたくなるように」書く 

「他者が読みたくなるように」とは、
読み終わった後の感想が、
「あ、そう」ではなく
ある、ある、へえーっ、そうなんだ」であること。

読み手に「へえーっ」と思われるためには、まず筆者自身が「ええーっ」と思ったエピソードを自分の中から引っ張り出し、書きたいことの中心におき、話を組み立てていく。それが構成を考えるということだと説きます。

第2章では、エッセイを成り立たせている文章を大きく3種類に分けて説明します。

1)枠組の文
2)描写
3)セリフ

「枠組の文」とは状況を示す説明の文で、話を進める役割をもち、読み手の頭にはたらきかけます。 一方、 「描写」は具体性を出すために必要で、「セリフ」は臨場感をもたせ、この2つは読み手の感覚にはたらきかけます。
上述の「ある、ある、へえーっ、そうなんだ」のうち
「ある、ある」の部分を「枠組の文」が担当して全体の状況を伝え、
「へえーっ」は主に「描写」と「セリフ」でリアリティを出す。
この3種類の文章をバランスよく取り混ぜることがだいじといいます。

このように分類して理論的に説明してもらうと、エッセイの書き方がはっきりと見えてきます。今までは、情報の文で状況設定を説明し、エピソードは読者がイメージしやすいように、描写やセリフでを使って書き込むと、漠然と考えていただけなので。

第3章と第4章では、読みやすさの実現に向かって、さらに各論に入っていきます。

本書では、すべて岸本さん自身の作品を例に解説されています。岸本さんの工夫のあとが実例に反映されているので理解しやすい反面、作品と照らし合わせながら解説を読むことに、こちらの頭が追いつけないこともあります。
このような「書き方」の本を読むときは、一度にすべてを理解しなくとも、そのとき自分の脳に響いてきたことだけを消化すればいいと思っています。次に読んだときには違う箇所が見えてくるはずです。今回この文章を書くにあたって、最初から最後までじっくり読み直してみて、新たな発見がいろいろあり、その思いを強くしました。