老いのエッセイ
書店に行くといつもエッセイコーナーを探します。書店の大きさにもよりますが、エッセイも小説も一緒に並んでいる店もあれば、一般的なエッセイのほかに「女性向けエッセイ」「タレントエッセイ」「動物エッセイ」などと分けて並べているところもあります。
先日はある書店で、「老いのエッセイ」とジャンル分けされているのを見かけました。思わず二度見するほど驚きました。そういう分け方をはじめて見ました。そのものずばり、あまりに直球のネーミング。せめて「高齢者向けエッセイ」とか「シニアエッセイ」とか、少しオブラートに包んだ表現でもいいのではないでしょうか。
とはいえ、高齢者向けの本が多いのは確かです。佐藤愛子さんの『九十歳。何がめでたい』から続くシリーズ、曽野綾子さんの『老いの才覚』、樋口恵子さんは『老~い、ドン』を思い出します。ほかにも和田秀樹さん、五木寛之さんなどの男性陣も、無名の方の本も多く見かけます。
書棚に並ぶ「老いのエッセイ」のタイトルを眺めながら、内容を想像してみました。元気に長生きするための秘訣、70代(もしくは80代、90代)をどう迎えるか、ひとり暮らしの楽しみ方、年金で暮らすための節約術、などのノウハウ的な要素が多そうです。
「老いのエッセイ」というネーミングはさておき、このようにジャンル分けされるということは、高齢化社会の日本において、こういった内容の本の需要が多いということなのでしょう。
60代半ばの自分に合う本はどれだろうと探してみました。予習として70代の生き方の本を読むか、健康に年齢を重ねる方法や節約術を今から実践するか。
本の背表紙を一つずつ見ていると、山際寿一という名を見つけました。たしか、ゴリラの研究で有名な方だったはず。本のタイトルは『老いの思考法』(文藝春秋)とあり、ゴリラの研究者がどういう老いのエッセイを書いたのか、気になり手に取ってみました。「はじめに」には、「人間だけが、長い時間をかけて老いと向き合います。動物は基本的に繁殖能力がなくなったら死ぬので、長い老年期というものがありません」と書かれていました。人間の老いへのアプローチがほかの本とはまったく違います。この本なら今の私に向いていそうです。読み手の年齢や生活によって、「老いのエッセイ」の需要もさまざまです。
その後、ネットで「老いのエッセイ」について検索していたら、酒井順子さんが『老いを読む 老いを書く』(講談社現代新書)を2024年11月に上梓していたことがわかりました。なんと、酒井さんは「老いのエッセイ」どころか、「老い本」(おいぼん)という表現を使い、分析しているようなのです。この本のほうが私に向いていそうです。