「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。
『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(藤吉豊・小川真理子著 日経BP 2021年1月発行)をご紹介します。
本書はタイトルのとおり、文章術の名著100冊のエッセンスを1冊にまとめたものです。100冊の本に書かれているノウハウを洗い出し、似た内容ごとにまとめ、そのノウハウの掲載冊数によって順位付け。ランキング40位までを詳しく解説しています。その100冊は、基本的には平成元年以降に刊行されたものから選ばれていますが、歴史に名を連ねる文豪やベストセラー作家が書いた文章論なども含んでいます。
書店でこの本を見つけたとき、「100冊から洗い出した共通ノウハウ」に興味をもちましたが、ベスト10に入ったからといってそれが絶対でもないだろうとも思いました。その後、たびたびこの本を手に取り購入を迷っていましたが、文末に掲載されている100冊のリストを覗いてみると、私が持っている本が10冊ほど含まれていました。そこで、それらの本の共通項を知るという意味で読んでみることにしました。
本書で扱う「文章」はさまざまな文章が対象となっています。ビジネス文書、ブログやSNS、論文、メール文など、文章全般です。ですから、エッセイとは関係なさそうなノウハウももちろん登場します。大いに関係するものもありました。
ベスト3を見てみましょう。
1位 文章はシンプルに
「シンプルに書く」ことは、 「1文を短くする」「簡潔に書く」「不要な言葉を省く」などの表現の違いはあれど、100冊中53冊に記されていたそうです。エッセイの合評でよく注意される「一読しただけで理解できるように」「1文に多くの情報を入れない」なども、「シンプルに書く」ことに集約されますね。
1文を短くするときに削りやすい言葉の候補として、
・接続詞(そして、しかし、など)
・主語(私は、彼が、など)
・指示語(それは、その、など)
・形容詞(楽しい、美しい、など)
・副詞(とても、かなり、など)
・意味が重複する言葉(まず最初に→最初に、馬から落馬する→落馬する、など)
の6つが挙げられていました。これはすぐに活用できそうです。
2位 伝わる文章には「型」がある
「結論を先に述べてから、説明する」「結論→理由→具体例→結論」「序論→本論→結論」などの型があり、型を覚えるのが上達の近道と書かれています。これはビジネス文書や論文などに当てはまりますが、エッセイにはもっと自由度がありそうです。
3位 文章も「見た目」が大事
「見た目」とは、紙面の字面(文字を並べたときの印象)のことで、「余白で読みやすい印象を与える」「漢字とひらがなのバランス」などが挙げられていました。「紙面いっぱいに文字が詰まっていると読む気が失せてしまう」のは、エッセイでも同じですね。漢字とひらがなのバランスとしては、「漢字が2、3割、ひらがなが7、8割」がひとつの目安だそうです。
21位には「とりあえず、書き始める」とあり、25位には「書き始める前に『考える』」と、反対のことが書かれていました。どちらの書き方もある、ということですね。
22位「『何を書くか』を明確にする」は、エッセイでも大切なポイントです。「読んでいてあまり面白くないなと感じてしまう文章は、ほとんど場合、……作者自身が『自分はこれから何を書くか』をはっきりとわかっていない」という指摘と同じことを、エッセイを読んでいて感じることがあります。
40個のノウハウには、納得できるものだけでなく、そう言い切れるのかなと疑問に感じるものもありました。こういうノウハウ本は、自分に響いた箇所だけ覚えておいて、エッセイを書くときに生かせばいいのでしょう。そのように活用しようと思いました。
* 本書の100冊のうち、私が所有する本は、『自家製 文章読本』(井上ひさし著 新潮社)、『「超」文章法』(野口悠紀雄著 中央公論新社)、『理科系の作文技術』(木下是雄著 中央公論新社)、『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』(三宅香帆著 サンクチュアリ出版)、『人の心を動かす文章術』(樋口裕一著 草思社)、『文章の書き方』(辰濃和男著 岩波書店)、『日本語練習帳』(大野晋著 岩波書店)、『思考の整理学』(外山滋比古著 筑摩書房)、『日本語のレトリック』(瀬戸賢一著 岩波書店)、『文章読本さん江』(斎藤美奈子著 筑摩書房)です。