必要な、そして正しい情報
12月の中旬に2泊で京都に行くことになった。アメリカに住む妹が、アメリカ人の家族3人を連れてくる。京都も見せたいと言うので、一緒に計画を練った。
3人のうち2人は初めて日本に来る20代の若者。定番の名所、金閣寺や清水寺に連れて行くのがいいだろうか。ご飯は何をどこで食べようか。日本食にあまり馴染みはないそうだ。移動はどうするか。バスと電車か、タクシーか。
電話やメールのやりとりを重ね、ほぼ決まりかけた11月後半、妹が焦ってメールしてきた。
「日本の友達と話していたら、京都は観光客ですごーく混んでいるとか。タクシーはつかまらないし、バスは停留所を素通りするほど満員で何時間も待つらしい。移動手段を考えないと……」
世の中がいわゆるコロナ以前に戻り、外国人観光客も多いという話は聞いていたが、そこまで混みあっているとは知らなかった。すぐにネットで検索すると、「タクシー絶対不足」「交通パンク」「観光公害」などの言葉と共に混雑ぶりが見えてきた。
宿泊予約の確認でホテルに電話した際にようすを聞いてみると、「紅葉の時期を過ぎた12月ですから、それほどではないと思いますが、なんとも言えません」という返事。妹と相談して、移動はなるべく電車を利用しようと計画変更してみるも、スーツケースを運ぶ時や行く場所によってはタクシーを使いたい。どの程度の混みようなのか、見当がつかず、現地で臨機応変に動くしかないと、半ば見切り発車で京都に向かった。
京都駅に着き、まずタクシー乗り場に向かった。拍子抜けするほどたくさんのタクシーが並んでいる。観光客の方はこちらの大型にどうぞと促され、乗り込んだタクシーの運転手に道々聞いてみた。
「京都はタクシーがまったくつかまらないほど混んでいるという話だったので、心配しながら来たんですよ」
「それはね、一時的に清水寺のあたりはそうだったかもしれませんがね、ニュースで言うほどのことはまったくありませんよ。僕も取材受けたけどね、ニュースになると、京都も人手不足だとか違う話になってね、そんなことはないんだ」
運転手の憤慨は、ホテルに着くまで続いた。
12月の京都は、観光客より中学生の修学旅行が多かった。グループ行動する中学生でバスは混んでいたが乗れないことはなかったし、タクシーは街なかで簡単に止めることができた。
乗るたびに運転手に聞いてみると、みなニュースが大げさだと言う。何かちょっと起きると、そればかりを取り上げて、全部がそのように見せる、嵐山の大雨の時だって京都市内すべてが水浸しのような印象を与えるニュースだった、そのようなメディアのやり方はどうかと思うと、メディア論にまで話が広がる運転手もいた。
今や、いろいろな情報がネットから得られるのに、自分に必要な、かつ正しい情報を得るのはけっこうむずかしいことを、改めて感じた。現地に行かないと見えてこないことが多かった。その裏返しで、タクシー運転手は不満を抱えていた。
ともあれ、旅行は無事に楽しく終わった。12月とは思えない暖かさで、若者たちはバスの中では暑い暑いと半袖Tシャツ姿になっていた。心に残った場所はと聞くと、伏見稲荷の幾重にも連なる朱の鳥居、清水寺の舞台を支える柱には釘が使われていないこと、そしてサムライ忍者ミュージアムで体験した手裏剣投げという答えが返ってきた。