ときめく人がいたら教えてください
実家の整理をしていたら、手作りの洋服が数着出てきた。私が高校生のときに縫ったものだ。最近は手作りから遠ざかってしまったが、あの頃は洋裁の得意な母に教えてもらって何着も縫った。
ピンクのジャケットは、林間学校に着て行った。ミシンのステッチは等間隔でまっすぐで、今見てもすごいと思う。カーキ色のミリタリー調のブラウスとスカートは『装苑』という洋服の雑誌に載っていて、母にこんな服が作りたいと言って、型紙を起こしてもらった。洋服を見ていると、いろいろ思い出す。
モノを片付ける方法として有名な「こんまりメソッド」では、「触った時にときめくモノだけを残す」が判断基準だ。
手作りの洋服に触れていると、ステッチが曲がらないよう真剣にミシンを操作していたことや、服を着てはじめて出かけたときの満足感が、心に溢れてくる。これって「ときめき」ではないかしら。もうしばらく、そばに置いておこうと思う。
セーターも1枚見つかった。大学のときに編んだものだ。これにはまったくときめかなかったが、自己流で、よくぞこんな凝ったデザインを編み込んだなと感心する。
45年前の当時に大流行したゲーム「スペースインベーダー」のキャラクターを図案化した。セーターの地は紺色、上半分には黄・白・赤の宇宙人を、裾回りにはピンクの宇宙船を配した。このふざけたデザインのセーターをなぜ編んだのか。友人からの受けを狙ったのか、実際に受けたのか、まったく覚えていない。
とはいえ、ぱっと見てスペースインベーダーとわかる、なかなかの出来だ。ときめきの法則で捨てるとしても、その前に誰かに見せたい。折よく、ゲーム好きの息子たちと夕食を共にすることになって持って行った。
「スペースインベーダーって知ってる?」
と言いながら、セーターを見せる。
「まあ、昔そういうのがあったのは知ってるけど」
反応は薄い。
「これね、私が大学生のときに編んだのよ」
「へえ」
2人の表情が変わった。単なるモノから少し親近感のある物に昇格したようだ。
「捨てる前に2人に見せようと思ってね」
「えー捨てるの? このゲーム、僕たちはやったことないけど、けっこう有名だから、こういうのを欲しがる人がどこかにいるはずだよ。捨てるのはもったいない」
と、2人とも力強く語る。
「でも、そんな人、どこにいるのかな。ヤフオクとかメルカリとか、ネット上で売るの?」
「多分……」
最後は尻すぼみとなったが、息子たちの言葉に背中を押されて、「そんな人」を探してみる気になった。このエッセイを読んだ方、どなたか心当たりがあったら教えてください。