ソウルフード?

 40年前、福岡県の人と結婚した。はじめて夫の実家を訪れたとき、お昼にラーメン屋に行った。東京育ちで九州ラーメンを知らない私に、ぜひ味わってもらいたいという、義父母の気持ちが伝わってきた。
 駅にほど近い所にあるT店。「昭和26年創業」という看板を見ながら暖簾をくぐる。独特のにおいが、店に入る前からあたりに漂う。
 そのにおいと共にテーブルの上に置かれたどんぶりの中で、汁は白く濁っていた。夫から九州は豚骨だよと聞いてはいたが、どうにも馴染めないまま汁をすすってみた。コクがあっておいしい。まっすぐの細麺も私好みだった。卓上には、ゴマ・高菜・紅ショウガが入った容器が並んでいて、ゴマだけかけてみた。
 店を見回すと、年配の人もけっこういる。義父母もいつもの食べ慣れた食事というようすだ。ラーメンが生活の中に根差している、異文化の地にやってきた気がした。
 異文化という点では、夫も東京で似た経験をしている。大学ではじめて東京に行き、ラーメン屋に入ったら、黒い汁が出てきてびっくりしたそうだ。九州でラーメンと言えば、白い豚骨スープなのだ。
 その後、夫の実家に行くたびに、「食べに行くぞー」と張り切る夫に連れられて、T店に向かった。行くのが当たり前だった。しばらくしてからは、F店か、どちらかになった。F店のほうが、風味が少しまろやかで、私には食べやすい。バス停の前にある別のラーメン店は、換気扇から漂うにおいがあまりに強くて、バスを待っていられない。一口に豚骨スープと言っても、いろいろあるのだと知った。
 熊本や、同じ福岡でも違う町に行くと、これまた味が違う。風味の強さはさまざまで、白濁の度合いも違い、あっさりもあれば、「私には無理!」と思わず言ってしまう濃い味もあった。
 夫はどこに行ってもおいしそうに食べる。息子たちも小さい頃から食べていたせいか、喜んで食べている。夫の妹も、実家に行けば、毎回ラーメンを食べる。しかも濃いほうのT店が好みだとか。
 けれども、私は年齢を重ねるにつれ、この豚骨スープがだんだん苦手になってきた。塩味も油っぽさも強く感じるようになった。
 夫の食べたい気持ちもわかるので、2回に1回は賛同するが、1回は私の希望でうどん屋に行く。福岡のうどんは腰がなくてやわらかい。茹で過ぎではないかと最初は驚いたが、そのやわらかさとつゆのまろやかさが相性よく、大好きになった。昆布と魚介系のだしに、薄口しょうゆとみりんで少し甘め。うどんのほうが私の体にしっくりくる。
 最近、行きつけのうどん屋が閉店してしまい、2回ともラーメンになりそうと、ちょっぴり心配している。