テーマは「冒険」
私の関わっているエッセイ教室では、3回のうち2回はテーマを出しています。何でも書いていいと言われると、かえって何を書いていいか悩む、テーマから考えるほうが書きやすいと、テーマを希望する声が多く聞かれます。
今回のテーマは「冒険」でした。
テーマを伝えたときに、「冒険ねえ……」と考え込むようなつぶやきが聞こえました。私も、「冒険」をどう捉えるかがむずかしいかなと、実は少し心配していました。
「冒険」という言葉の意味としては、「危険な行為にあえていどむこと」がまず頭に浮かびます。そういう経験をしてきた人は、多くはいません。けれども、生活のなかでのちょっとしたチャレンジという意味合いでも、この言葉が使われることがあります。そう考えると、身近なエピソードでもこのテーマで書けそうです。
教室では、さまざまな冒険がエッセイに登場しました。その一例を紹介します。
・若い頃、まだアメリカ統治下の沖縄へ一人で旅行
・50歳を超えてから、一人で行く海外旅行の楽しさに目覚めた
・定年退職後に、新たなアルバイトにトライ
・寿司屋のカウンターに一人で行く
・句会に初参加
・転勤先の外国で、右も左も言葉もわからない所でのはじめての買い物
・5歳の頃、妹を連れて電車に乗ってシロツメクサを摘みに行った
・幼い頃、母親が買い物している間にデパートを探検した
・年齢を重ねても、諦めずに進む、それが自分の冒険
上記の項目を読んだだけでは、あまり冒険らしくないものもありますが、エッセイにおいては、情景や時代背景、当事者の年齢や性格も加わって、読み手に「冒険」をおおいに感じさせました。
「冒険はしない」という作品もありました。「ロングヘアを切るという冒険はもう少し先」「運転が得意ではないので、混んでいる所で運転する冒険はしない」。テーマを否定的に使うというのもおもしろい書き方です。
半生を振り返って、冒険とは程遠い、波乱のない、おもしろみのない人生を送ってきたと綴られた作品もありました。書き手は、「冒険」にまつわるエピソードは何も思い浮かばなかったと自嘲気味でしたが、自分の人生を「冒険」という切り口で見直した作品で、それまたテーマに沿った作品と言えるでしょう。
テーマ「冒険」のエッセイ教室のあと、お茶の席でのことです。よもやま話のなかで、こんな質問をした人がいました。
「みなさんは、お店に食べにいったとき、いつも同じものを頼みますか? それとも、毎回違うものを頼んでみようと、冒険するほうですか?」
みんなで顔を見合わせました。
「あら、そういう冒険もあったわね」
テーマでずいぶん悩んでいたのに、身近な会話のなかにヒントが潜んでいました。