お別れ

 コロナ禍を挟んでの大きな変化の一つに、葬式のスタイルがあると思う。それまでの、知人や会社の人に広く知らせての一般葬が減り、少ない人数で執り行う家族葬が多くなったように感じる。禍中においては少人数でするしかなかったが、悲しみを共有する近しい人だけでゆっくりと故人を見送ることの良さに気づき、2024年に入っても、家族葬を選ぶ流れがそのまま続いているような気がする。
 夫の会社時代の友人の場合も、訃報の連絡が会社の誰にも届かなかった。
 年に2、3度、飲み会やゴルフで会う間柄で、しょっちゅう連絡を取り合っていたわけではないが、いつからかメールが来なくなり、LINEを送っても既読にならない。そのうちに連絡があるだろうと夫は待っていたが、心配は少しずつ増していった。思い立って携帯に電話すると、「現在使われておりません」というメッセージが流れた。家に電話しても誰も出ない。夫は手紙を送ってみると言い、葉書のほうがすぐに内容が目に付くだろうと、心配していることと、こちらの電話番号・住所・メールアドレスも書き添えて送った。
 ほどなくして届いた奥さんからのメールには、3ヵ月前に亡くなり、家族葬で見送ったと書かれていた。 突然のことだったそうなので、奥さんはその事実を受け止めるだけで精いっぱいだったと推察するが、夫としてみれば知らせてほしかっただろうし、お別れもしたかっただろう。
 夫はがっくりと気落ちして、しばらく元気がなかった。
 この一連の件の少し前、私の仲の良い女友達が亡くなった。そのときは、彼女のご主人が、妻のメール相手みんなに訃報を知らせてくれた。おかげで、通夜に行ってご主人からいきさつを聞き、告別式では彼女の顔に触れてお別れすることができた。悲しいことに変わりはないけれど、十分に時間をかけてお別れして、気持ちはだいぶ落ち着いた。もし、こうした時間が持てなかったら、悲しみは今もまだ心のなかをさまよい続けていたと思う。
 ご主人は、妻の友達のどこまで知らせたらいいのか、コロナがだいぶ収まったとはいえ人が集まる葬式を行っていいのか、悩んだそうだ。「今日、ここに来たみんなが、お別れができて良かったと思っています」と、私の気持ちをご主人に伝えた。
 私の友人は65歳。夫の友人は69歳。知らせてほしい、お別れをしたいと思うのは、年齢や間柄にもよるだろう。また、当事者側の事情や考え方もある。とはいえ、落ち込んだ夫を見るにつけ、私は友人のご主人に何度も感謝したくなるのだった。