なんや、おまえ、アジサイやったんか

 6月のこの時期、雨が続くのは気が重いが、アジサイの花が私の心を軽やかにしてくれる。
 なんと言っても、あの色が好き。紫と青を混ぜたような色合いに濃淡の変化もあって、1つとして同じ色がない。その何が私の心に触れるのか、見るたびに胸の奥がキュッとなる。
 最近は花の種類が増えた。以前は、こんもりと丸く集まったものが主だったが、今では近所の家の庭先にも、いろいろなガクアジサイを見かけるし、花の大きさもさまざまだ。
 アジサイはあそこにもここにもと意外と多くの場所で咲いている。いつも不思議に思うのは、咲かないと、そこにあることに気づかないことだ。咲いた花を見て、初めてその存在を知る。いつもの散歩コースや駅までの道なら毎年見ているはずなのに、花のない季節には、ほかの植物に化けてしまったかのように姿を消してしまう。
 1ヵ所だけ、歩道に沿って毎年咲く場所を知っている。しかし、冬に通りかかると、薄茶の枯れ木がごつごつしているだけだ。あれ、ここにアジサイがあったはずよね?と心配になる。冬を越す姿は、私を虜にする花からは想像できない。

 ある晩、ラジオをつけると、俳優の菅田将暉さんの「オールナイトニッポン」が流れてきた。寝る前だから静かな番組に変えようとしたとき、気になる言葉が聞こえてきて手が止まった。
「アジサイの花は、まったく意識していなかった場所にぽっと出てきますよね。ふだんの生活にはない色合いで、こんもりしているから目立つ。急に出てきたアジサイに、
『あ、なんや、おまえ、アジサイやったんか』
と声をかけたくなる」
 すごい。私も同じことを感じていたけれど、このような表現はできない。思いもつかない。若い感性に脳を刺激されて、しばらく目がさえて眠れなかった。