外国人の目に映る日本

 アメリカに住む妹は、年に1、2度日本に帰ってくる。その際に、アメリカ人の家族や知人を連れてくることがある。昨年12月には、男性3人を連れて10日間やってきた。
 来日3カ月ほど前から、妹に協力を頼まれ、一緒に旅行計画を練り始めた。20代の2人は日本が初めてで、ディズニーシー以外は特に行きたい場所がないらしい。50代のマークはこれまでに何度か来ていて知識や興味もあり、今回行きたい場所の希望リストが、妹経由で送られてきた。
 東京では、新宿の交差点の高いビルにあるPR用の大型ビジョンで、3Ⅾ画像の巨大な猫が飛び出してくるのを見たい。ロボットレストランはコロナ禍で閉店したと聞くが、復活していたら行きたい。以前に行った京都が印象的だったから、若者たちに見せたい。新幹線もクールだ(かっこいい)から、乗せたい。特にトイレがすごい。手を使わずに、便器が開き、水が流れる。金閣寺や伏見稲荷神社のほかに、サムライ忍者ミュージアムを見せたらどうか。自分は嵐山のモンキーパークに行きたい。炎のラーメンも食べたい。
 私が初めて聞くスポットがいくつもリストアップされてきた。どこでそういう情報を得るのかと妹に尋ねると、外国人が日本で気に入った店や場所を投稿するSNSやサイトに、情報が山ほど上がっていて、マークはそれを眺めて行きたい場所をチェックしていると言う。
 たとえばと教えてくれたトリップアドバイザーという旅行サイトを見ると、たしかに人気の京都観光スポットの第8位にサムライ忍者ミュージアム、第12位にモンキーパークが載っている。炎のラーメンを検索すると、 カウンターに置かれたラーメンに火のついた高温のネギ油がかけられて、立ち上がる炎に歓声を上げる外国人の動画がいくつも出てきた。
 私の知っている日本とは違う姿が外国人に広がっていて、彼らはそれを求めてやってくる。なんとなく違和感はある。けれども、私の頭にある情報は古いのかもしれないし、自分が外国を観光するときも、結局はガイドブックやネットで見つけた情報が頼りだ。それと同じことなのだろう。
 京都へは私も同行した。マークは新幹線の多目的トイレに行き写真を撮ってきた。壁に貼られている禁止事項のステッカーのうち、「便座の上に乗ってしゃがむ姿」の写真を見せて、「最新式のトイレにこんな注意が!」と喜んでいる。
 若者2人は、金閣寺の輝きや、清水寺の舞台の木組みに釘が使われていないことに感動していたが、一番楽しかったのはサムライ忍者ミュージアムでの手裏剣投げだそうだ。そこは、まず英語でサムライの歴史の説明が30分あり、手裏剣投げをしてから、鎧兜を身に付けて写真を撮るのがコースになっている。1回の参加者は15人ほど。大人から子供まですべて外国人だった。歴史説明のあと、細長い部屋に移動し、3メートルほど先の発泡スチロールの壁に描かれた的めがけて、固いプラスティックの手裏剣を投げる。リストを使って投げないと壁に刺さらない。つい私も本気になる。鎧兜はちゃちなものだったが、身に付けてみると、けっこうその気になっている自分に気づく。刀をふりあげて記念撮影。
 嵐山の渡月橋を渡った先の山に、1957年開業のモンキーパークがあるとは、まったく知らなかった。20分ほど息を切らしながら登った先の、見晴らしがすばらしい所に、猿が放し飼いにされていた。来場者の半数以上が外国人だった。マークは大の猿好きで、袋のエサをいくつも買って与えていた。彼がいつかは行きたいと願っているのは、露天風呂につかる猿がいる長野県の地獄谷野猿公苑だそうだ。雪を頭に載せて温泉に入る猿の姿は、私もテレビで見たことはある。交通の便が悪い場所にあるのに、ここも外国人観光客でいっぱいらしい。
 炎のラーメンには行けなかったけれど、マークも若者も、日本にいる間に何回かラーメン屋に行き、替え玉も頼んで食べたそうだ。
 東京では彼らだけで動きまわっていたが、最後の晩は居酒屋「権八」に一緒に行った。日本人には小泉元首相がブッシュ元大統領と訪れたことで知られているが、外国人にとっては、タランティーノ監督の映画『Kill Bill』で戦いの場所のモデルになった店として有名だとか。ここも、客の8割以上が外国人。スタッフも外国人が多い。「らっしゃいませー」という威勢のよい掛け声は日本語だ。丸いぼんぼりの明かりと2階に飾られた大太鼓が、外国で見かける日本料理店を思い出させる。
 アメリカからの客人のおかげで、私の知らない日本をたくさん見ることができた。