浦島太郎の選択
新築で住み始めたマンションも28年がたち、リフォームをすることになった。担当の設計事務所にこちらの希望を伝えるのと並行して、浴室とキッチンについては、ショールームに実物を見に行った。
案内係に最近のお風呂を見せてもらう。わが家の、冷たいタイルの床、掃除しにくい排水溝は大昔の話、今時の浴室は足元がヒヤッとしない、お湯が冷めにくい、汚れにくい、掃除しやすい、らしい。細かい仕様を決める際、
「浴室に鏡は必要ですか?」
と聞かれた。鏡がないという選択もあるの?と質問しかけると、すぐに答えが返ってきた。
「鏡は掃除が面倒なので、最近は取り付けない方もけっこういらっしゃいます。入浴中に髭をそられる男性は必要とおっしゃいますが」
たしかに、うちの鏡には水垢がこびりつき、ぼやけている。目が悪い私は、浴室では鏡を見ない。夫も浴室では髭をそらない。
「シャンプーなどを置く棚は必要ですか?」
それは絶対に必要でしょう?
「最近はマグネットで壁に付ける方もけっこういらっしゃいます。棚に置きますと、その部分が汚れますので」
最近のユニットバスのほとんどは磁石が付くため、棚やタオル掛け、シャンプーのボトルも洗面器や椅子も、マグネット式が売られているのだとか。そうすれば、接地面にカビや水垢が付くこともなく、もし汚れても買い替えればいい、というのが理由だそうだ。そういえば、近くのインテリアショップでもマグネット式が売られていたが、ピンと来ていなかった。そういうことだったのか。
次はキッチンのショールームへ。色や素材などを選ぶ際に、シンクと調理台を同じ素材にするという選択肢もあると知った。人工大理石もしくはステンレスの一体型にすれば、継ぎ目がなくなり、カビや汚れの心配はなくなる。また、水栓は先が伸びるタイプだとシンクの掃除はしやすいが、伸びた部分の蛇腹の汚れは掃除しにくい。引き出しなどの素材は光沢があるものだと指紋が目立って、気にする人もいる。
展示物を見ながら続く説明には、「掃除」に関する言葉が何度も出てくる。機能面ではそれほど大差はなさそうで、決め手は「きれい」を維持できるか、のようだ。共働きの家族が多くなり、家事に時間を割かない方法を社会が求めていると感じた。
私は設備についても、どちらにするか迷っていた。ガスコンロのままで行くかIHにするか、そして食洗機を導入するかしないか。
親に「火を使うのは危ないからIHにしましょうよ」と盛んに勧めたのは、親が何歳のときだったか。私もその年齢に近付いているはず。IHにすべきだろうか。これまた、掃除しやすいというのが、IHの大きなメリットでもあるらしい。
28年間、食洗機は使っていなかった。その前にアメリカに住んでいたときは、大きな食洗機に何でも放り込んで、1日1回、毎日回していた。ザルの網目まで見事にピカピカになって感動したものだ。日本に帰ってきて、この小ささでは使い勝手が悪そうと、購入しなかった。息子2人が独立し、自分自身もだいぶ時間の余裕ができた今、夫と2人の生活に必要だろうか。
後日、同世代の友人4人とランチをしたときに聞いてみたら、4人とも家にあると言う。それが当たり前になっていたようだ。みな子どもが独立したが、3人はやっぱり食器がきれいになるから、食洗機なしの生活は考えられないと言い、1人は食器数が減ってその都度洗ったほうが早いので、ほとんど使っていないと言った。
さまざまな情報を踏まえ、設計事務所からのアドバイスもあるとはいえ、最終的に選ぶのは夫と私だ。28年ぶりに一新するわが家がどんな住み心地になるかは、これらの選択が大いに関係しそうで、なかなか決断できずにいる。