内股の女の子
前を行く、若い女の子の足元を何気なく見た。つま先が少し内側を向いている、頼りなげな歩き方。見覚えがある。そう、私もそうだった。
小さいころから、家でお絵描きをしたり折り紙を折ったりするのが好きだった。外で遊ぶときは、活発な姉の後ろに隠れるようにくっついていた。
何か聞かれればきちんと答えるけれど、自分からどんどん人の輪の中に飛び込むタイプではなかった。たとえば、親戚の家に行ったとき、私は本棚の前にすわり、ずっと本を読んでいた。それは、本が好きというよりは、おばさんと話をしなくてすむ、話しかけられずにすむという、自己防衛の手段だった。
歩くと、内股気味の足元がよく見えた。下を向いて歩いていたのだろうか。自分に自信がなかったわけではないが、その自信を外に向けて発信することができなかった。それでも、小学校から高校までは付属校だったから、見知った仲間の中で、それなりに居場所を見つけて過ごしていた。
転機が訪れたのは、大学に入学したときだ。誰一人知り合いのいない世界。ここで、どうやって生きていけばいいのだろう。外海に放り出された気分だった。
自分の性格を変えようと思った。クラスやサークルの中にどんどん入り込んでいこう。意識して胸を張って、前を見つめ、外股で歩き始めた。
まったく新しい環境の中で自分を変えるのは、意外と楽だった。以前の私を知る人はいないのだから。まったく違う自分を作り上げればいいのだから。
そして、今。私は足元など気にしない。足の向くまま、歩いている。