小泉今日子書評集

『小泉今日子書評集』(小泉今日子著 中央公論新社 2015年10月25日発行)をご紹介します。

エッセイには、いろいろな話が登場します。読んだ本について書くこともあります。 なぜその本を選んだのか、読んだときの感想、本から思い出されたことなど。エッセイとして書くためには、本の内容紹介以外のその他の部分が大切です。そこが書評と違うところだと思います。

そうは言っても、内容にも触れないと、自分の思いと本がどう絡み合っているのかが、読者に伝わりません。また、本のラストの感動を書きたくても、まだ読んでいない人のために結末は内緒にしておかなくてはなりません。
自分の思いと本の内容、そのバランスが難しい

そのバランスが絶妙な本に出合いました。それが『小泉今日子書評集』です。

2005年から2014年の10年間、小泉今日子さんは読売新聞の読書委員となり、書評を書いてきました。97冊の書評が本書には載っています。

本の内容からズバリを書き始めた書評もありましたが、特に印象に残っているのは、ご自身のことから書き出されたものです。10代の頃の生活、子供の頃は世の中のどんなことを観察していたか、母親が疎ましかった思春期の頃。そんな話から始まって、本の紹介へと自然に流れていきます。本を読んで号泣してしまったなどという素直な感想も、タイトルを見て「恋愛小説集」と思って読み始めたら「変愛」だったという書き出しもあります。
本の内容にもしっかり触れ、それと同時に本を読む自分も存在します。芸能人としての小泉今日子ではなく、感性豊かな1人の女性の文章です。書評エッセイと呼びたくなる文章です。

巻末のインタビューで、小泉さんはこう答えています。
――本って面白かったら、友達とかに「これ、面白かったよ」と渡せば済むものだと思うけれど、書評だとそうはいかないので……。そこで考えたのは、本を読んだ時間みたいなものを書こうということだったんです。読みながらどんなことを感じたとか――
だからこそ、絶妙なバランスが生まれたのでしょう。

それぞれの書評の後には、少し小さい文字の2、3行の文章がおまけのように付いています。本にまとめる際に、書評をどんな気持ちで書いたか、また、その本がその後受賞したとか映画になったとかの情報を書き加えたのでしょう。それもまた、ミニ情報として楽しませてくれました。

なぜ、私は本屋でこの本を手に取ったのでしょう。それほどミーハーではないので、小泉今日子という名前が理由ではないはず。真っ白いカバーに赤く「小泉今日子」、黒い文字で「書評集」と、すてきな書体で書かれていて、手に取ると、白いカバーの下には透けてたくさんの本のイラストが赤く見えている。そのオシャレな装丁にまず惹かれたのかもしれません。

本についてエッセイを書いてみたい方には、ぜひ読んでいただきたい本です。

*文章を書いた後の話を2、3行付け加える方法にヒントを得て、私が昨年末に上梓した本『あの日のスケッチ』にも後日談やこぼれ話を載せてみました!