井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室

『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』(井上ひさしほか著 文学の蔵編 新潮社 2002年1月発行)をご紹介します。

本書との最初の出会いは20年近く前、エッセイグループの勉強会で、文章の書き方の参考図書として教えてもらいました。
先日、この本と書店で再会しました。井上ひさし氏の言葉について調べていたときのことです(これについては「エッセイは自慢話?」をご覧ください)。18刷が2022年5月に発行されていました。長く多くの人に読まれているようです。久しぶりに手に取ってみました。

本書には、1996年に岩手県一関市で開かれた「作文教室」で、井上ひさし氏が講義した内容と、受講生が書いた文章と講評が収められています。タイトルにある「141人の仲間たち」とは受講生のことです。
講義では、文章を書く際にだいじなことや気をつけるべきこと、基本的なルール、日本語とはどういうものか、などに触れ、多くの脱線もありながらの、有意義な講義だったようです。

冒頭に、「作文の秘訣を一言でいえば、自分にしか書けないことを、だれにでもわかる文章で書くということだけなんですね」と出てきます。やはりそれが大切なのだと、再確認する思いで読み出しました。

段落や一字下げは、だれが読んでもわかるための技術的な規則。段落は「ひとつの考え方のまとまり」であり、一字下げは、そのひとまとまりが始まることをはっきりさせるためにある。改行して一字下げることの意味と、それがどれだけ大事なことかを教えてくれます。
辞書はそばに置いておくこと。言葉を正しく使わないと、読み手に伝わらない、誤解される、意味不明となってくる。辞書は、自分の持っている言葉を正確に使えるようにするためのものと、必要性を説きます。
その他、「点ひとつで意味が変わってくる」「接続詞をむやみに使わない」「『は』と『が』の使い方」「修飾語とそれを受ける言葉の関係」などの説明が、実例と共にわかりやすく書かれています。

日本語とはどういうものか。この大きな命題についても語ります。文章の書き方とは直接にはつながりませんが、日本語の特徴については、 いろいろな角度から取り上げられていて 、興味深く読みました。たとえば、語彙はその国の人々の生活や関心事に大きく関係しているそうです。日本語は魚の名前を細かく区別する。同じブリという魚でも、大きさや地域によって、イナダ、ハマチ、ワラサなどの名前がある。海に囲まれた国だからこその語彙というわけです。

本の最後には、受講生が「今自分がいちばん悩んでいること」を400字で書いた文章26編が掲載されています。実際の作文教室では、それを朗読したそうです。
その場で朗読する受講生に対して、井上氏は次のように声をかけます。
「自分の作品を自分の声で、より良いものにする。そういうつもりでお願いします……皆さん、必ず早口で読みはじめますから、遅いくらいのつもりでどうぞ」
これはすぐにでも実践したいと思いました。