ここで唐揚げ弁当を食べないでください

『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』(小原 晩著 実業之日本社 2024年11月)をご紹介します。
書店でエッセイ集の棚を眺めていると、気になるタイトルが目に飛び込んできました。『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』。手に取ると、帯に書かれている言葉も気になりました。「伝説的ヒットの自費出版本、新たに17篇を加え、ついに商業出版!」とあります。
趣味でエッセイを書く私たちが本を出すとき、そのほとんどは自費出版です。名の知られていない者の本は、まず商業出版はしてもらえません。いったい、どんな本なのでしょう。
まず、本のタイトルと同名の作品から始まります。見開きの短いエッセイ。社会人になって、青山の通りの物陰でこっそり唐揚げ弁当を食べて、休憩していた。あるとき、そこにいつものように行くと、「ここで唐揚げ弁当を食べないでください」という張り紙。それを読んで焦る気持ち、逃げる姿。短い描写から、それらが飛び出してくる。勢いがある。テンポがいい。サーッと一陣の風が吹き去ったような、読後感でした。
題材は、本書のはじめのほうは、新しく就職した先でのことを取り上げています。さまざまなことが起きて、それらは理不尽であったり、昨今の職場環境が見えてきたりして、筆者の目を通して見える世界を、読者も一緒に体験します。
後半では、最初のほうほどの大きな出来事は起きませんが、それでも読ませるのは、筆者の視点がユニークで、読み手の心を捉える力があるからでしょうか。
そして、全般に大いなる若さを感じました。若い感性でとらえた日々の楽しさを、共有させていただきました。
読み終わってから、自費出版が商業出版へとつながった背景を調べてみました。FREENANCE byGMOというサイトに小原晩さんのインタビュー記事が載っていました。それによれば、自費出版した本を置いてもらいたいと思った独立系の本屋さんに、「こんな本を作りました」とメールを送ることから始め、その本屋さんやお客さんのSNSでだんだん話題になり、初版の200部がすぐに売り切れて、次に刷った200部もすぐなくなり、追加で600部刷り、1,000部になるまでが1カ月ぐらい、とどんどん広がっていったそうです。筆者の熱意と本の実力が、この結果を生んだのでしょう。
巻末に載っている筆者のプロフィール。その最後に「ごあいさつの代わりに、好きなものを並べます」とあり、「風、湯船、散歩、ひらけた景色、お笑い、太陽の塔、食べたり飲んだり」と書かれていました。タイトルにも惹かれましたが、こういうセンスも光っています。