明るい覚悟 こんな時代に

『明るい覚悟 こんな時代に』(落合恵子著 朝日新聞出版 2020年9月30日発行)をご紹介します。

新型コロナウイルスの流行で、当てもなく本屋をぶらつくことからすっかり遠ざかっていました。先日、最寄り駅にある本屋に行き、久しぶりにゆっくりエッセイ本の棚を眺めました。タイトルや装丁を見ながら、自分の勘を頼りにおもしろそうな本を見つけ出すのは、楽しいものです。

ある表紙に目が止まりました。生成り色の地に、落ち着いた水色一色で描かれた庭のイラスト。木々や草花が、窓を取り囲むようにして繁っています。著者は落合恵子さん。私が知っているのは、深夜放送「セイ!ヤング」のパーソナリティとして、その後、絵本の店「クレヨンハウス」を主宰する姿だけで、多くの著作をもつ落合さんの文章を読んだことはありませんでした。

手に取り、目次を見て、この本への期待が高まりました。タイトルが、すべて動詞なのです。「刻む」「譲る」「味わう」「忘れる」……22個の動詞が目次に並んでいます。
エッセイ教室でテーマに沿って作品を書くとき、こういう動詞をテーマにすることがあります。落合恵子さんは、「一冊の本」という月刊雑誌の連載において、毎月、タイトルとなる動詞を考えて、それに合ったエッセイを書いていたのです。興味深い試みにつられて、購入しました。

1編は、43字×17行が10ページ、単純計算で7310字です。中にいくつかの小見出しがあり、いろいろな話が出てきますが、どれもタイトルの動詞と関係がある、もしくは回り回って動詞に戻ってきます。毎月この分量の文章を、ある動詞に基づいて書いていく。さすが、プロです。

ほぼ毎回、エッセイに登場する話題が2つありました。
1つは自宅の庭です。種子を蒔く、生育のようす、咲き出した花の色。さまざまな植物が出てきて、読み手はすべてを把握できませんが、落合さんのきめ細かな手入れに応えるように育つ姿が目に見えるように描かれています。
そして、もう1つは絵本です。仕事柄、数多くの絵本を知っているだろうとは思いますが、そのエッセイにうまくはまる内容の絵本が紹介されて、またまた、さすがと感じ入ります。

一般に、有名人には有名人なりの生活があって、素人が趣味で書くエッセイとは内容からして違います。しかし、落合さんの綴る日々の暮らしは地に足が着いていて、共感できる内容が多いのです。そのうえ、お手本にしたいような魅力的な文にたびたび出合えて、読んでいて楽しくなります。
生き方として見倣いたいのは、落合さんの行動力です。動詞をタイトルにしようと思うだけあって、日々の行動範囲も交際範囲も広い。私も動詞でエッセイを書けるよう、もっと動き出すことにしましょう。

本屋の棚で気になって手に取った本書。おもしろそうな本を見つけ出す私の勘は鈍っていなかったようです。