出版するのではなくても

本の編集に関わっていた方に伺った話です。
エッセイを出版するかどうかについて、その方は以下の3つのポイントで考えるそうです。
1)名の知れた人が書くエッセイか
2)日常ではありえない特異な経験をした人のエッセイか
3)エピソードは普通でも、思いつかないような独自の視点があるか
プラスして、文章に魅力があること。文章が明快で、表現のおもしろさが必要。

売れる可能性のある本を作らなければならないので、編集者の目は厳しくなります。
この話を聞いて、趣味で書くエッセイにもつながると思いました。出版するわけではなくても、「エッセイ」は一般の読者を対象にして書きます。読み手が興味をもち、おもしろいと感じる作品を書くためのヒントを、上記のポイントから拾ってみました。

〇名の知れた人のエッセイ
名が知れているとは、筆者について知っている読者が多いということです。筆者がどういう人か、顔や姿、話し方、何歳でどういう経歴かなどを読者が知っていれば、作品に筆者の背景を書き入れる必要がありません。
また、有名な人が「誰々とどこへ行って何を食べた」というエッセイを書くと、それだけで読者は興味を覚えます。有名なあの人の行動だから読んでいて楽しいのですね。
そういう意味では、名の知れた人のエッセイはお手本にはなりません。趣味でエッセイを書く場合には、筆者自身についての説明が必ず必要ですし、単なる身辺雑記で読者を喜ばすことはできないのです。

〇特異な経験
そういう経験をもつ人は多くはいませんが、特異ではなくても、専門的なことや、少数の人しか知らない分野の話もおもしろいものです。また、今後、好奇心をもって新しいものに挑戦することで、興味深い経験をすることができるかもしれません。ネタは過去から拾うことも、未来の行動で作り出すこともできます。

〇エピソードは普通でも、思いつかないような独自の視点
特異な経験がそう簡単に起こらないとなると、普通のエピソードをどう書くかです。独自の視点とは、どういうことをさすのでしょう。
まずは、作品に「その人らしさ」があることが大切だと思います。
紀行エッセイを例に考えます。旅行ガイドのように、誰が書いても同じような内容では、エッセイとしてはつまらない。実際に自分の目で見て感じ体験して、「その人にしか書けない内容」であることが、作品のおもしろさに繋がります。そういう意味で「その人らしさ」という言葉を使っています。
とはいえ、「その人らしさ」を出せば「独自の視点」になるかといえば、そう簡単にはいきません。もう一歩踏み込んだ何かが必要です。筆者がそのエッセイで読者に伝えたいと思える「気づき」「発見」「考察」などがあったとき、その筆者ならではの視点が作品に加わるのではないでしょうか。

〇魅力的な文章であること
これは私も書き方を教えてもらいたいくらいですが、まずは、わかりやすい文章であることが大前提だと感じます。助詞を正しく使う。その言葉を正しい意味で使っているか、辞書で確かめる。自分の気持ちを正しく伝える言葉を探す。そういう基本的なことの積み重ねの先の先のほうに、魅力的な文章が存在すると思っています。