『南インド 神々と出会う旅』その1

エッセイの仲間が本を出すとき、そのほとんどはエッセイ集です。
ところが、この夏に、私の関わっているエッセイ教室の方が出した本は、旅行のガイドブックでした。しかも、自費出版ではなく商業出版です。

タイトルは『南インド 神々と出会う旅』(書肆侃侃房 2025年8月)。
著者の河本憲治さんはエッセイ教室に通って14年になります。途中で、4年間ほどだったでしょうか、南インドに転勤になりましたが、その間も、毎月エッセイを書き続けました。それを教室で合評し、その内容や私の講評はpdfにしてメールで返送しました。

エッセイには、南インドの人々のようすやお国柄や習慣、そして旅行や出張で訪れた場所で見たこと感じたことなどが登場します。現地での多くの時間は仕事に費やされているはずなのに、仕事以外の多彩な内容が毎月描かれていました。
教室のメンバーにとってははじめて聞く話ばかりで、疑問がいろいろ湧き、ここをもっと知りたいね、この説明がほしいですねと、要望が出ます。河本さんは、どう書いたら理解してもらえるのか、どういう情報を加えるべきかなどと、毎回考えていたことと思います。

海外赴任先で、忙しい仕事をしながら書き続けるのは、なかなかできることではありません。しかし、書き続けたことによって、多くの経験が文章として残りました。写真だけではなく、文章の記録もある。このことは、帰国後に大いに役立ったのではないかと、私は勝手に推察しています。

南インドに暮らして、人々と交流し、各地でさまざまな体験をして、インドが大好きになった河本さんは、インドの魅力を多くの人に知ってほしいと感じたようです。帰国後、持ち前の行動力をいかんなく発揮して、写真展、カルチャースクールでの講座、ビジネス関連の講演、ツアー企画など、さまざまな方法で南インドの魅力を発信し続けています。しかも、これまた本業の仕事のかたわらにです。
そして、2025年8月には、ガイドブックの出版です。

このガイドブックは、見開きで1つの場所や風習の紹介が完結しています。多くの写真とともに、文章がしっかりと組み込まれています。多くの文章はエッセイ教室で合評を受けていますから、読み手が深く知りたい部分まできちんと書き込まれています。
そして、筆者がどう感じたか、筆者の目でみた景色も描かれています。
話は逸れますが、エッセイでは筆者自身が書き込まれていない文章について、「ガイドブック」を例にすることがあります。
「ガイドブックは誰が書いても同じ内容になる。エッセイでは『私』を出すことによって、その人にしか書けない文章になる」
と、アドバイスすることがあるのです。
この河本さんのガイドブックの文章からは、「私」が見えてきます。他のガイドブックとの違いを、強く感じました。

実は、河本さんがインド滞在中に、エッセイ教室の5名が南インドを訪れました。旅行スケジュール、レストラン、宗教や風習などの説明まで、河本さんがツアーコンダクターさながらに案内してくれました。そのときに訪れた場所や店もこのガイドブックに登場していて、個人的には懐かしさも感じながら読みました。

次回のエッセイ工房では、ご本人にお聞きした出版に至る経緯、苦労話などをお伝えします。