気になる言葉(9)レトロニム

「レトロニム」という言葉をご存じでしょうか。
言語学者である金田一秀穂氏の本『あなたの日本語大丈夫?』(暮しの手帖社 2023年7月)で、私ははじめて知りました。ちなみに、この本は最近の社会を言葉という切り口で紐解き考察していて、興味深く読みました。

「レトロニム」について、本書ではこう説明しています。
「以前は当然だったから特別な名前が要らなかったけれど、時代が変わって、それをわざわざ言わなければならなくなって、新しい言葉が生まれる。そのような現象をレトロニムと言う。再命名」
そして、次のような例をあげています。
・回転寿司屋が多くなって、それまでの「寿司屋」は「回らない寿司屋」と呼ばれるようになった。
・コロナ以前は、「授業」といえば教室に教師と生徒がいて行うものだったが、コロナ下ではリモートで授業が行われ、「対面授業」という新たな言葉が生まれた。
・「ライブ」といえば観客がいるのが当たり前だったが、コロナ下に観客のいないライブを行うようになり、区別するために「有観客ライブ」と呼ばれるようになった。

この「レトロニム」について興味をもち、少し調べてみました。
Retronymという英語をメリアム・ウェブスターの辞書で調べると、アメリカ人ジャーナリストFrank Mankiewicz氏による造語で、1980年に初めて使われた言葉であるとわかりました。
レトロニムの例は身近にたくさん存在します。
・「無声映画」(もしくは「サイレント映画」):もともと映画には音がなかったが、音声入りが普及して、それまでの「映画」を「無声映画」と呼ぶようになった。
・「固定電話」:携帯電話の普及で、それまでの「電話」を「固定電話」と呼ぶようになった。
・「ガラケー」:スマホの普及で、それまでの携帯電話を「ガラケー」と呼ぶようになった。
・「アナログ時計」:デジタル時計の登場によって、それまでの時計を「アナログ時計」と呼ぶようになった。
・「布おむつ」:紙おむつが普及して、それまでのおむつを「布おむつ」と呼ぶようになった。

いくらでも例が出てきます。技術の進歩や社会の変化などによって、それまで存在していたモノとは同種だが違うモノが生まれ、それが一般的になり、以前のモノを区別して認識する必要が出てきました。そのために新しい呼び方が生まれたのです。
「固定電話」「アナログ時計」「布おむつ」などの言葉は、自然に生活の中に入り込み、何も考えずに使っていましたが、レトロニムという現象があらゆる場面で起きていることに改めて気づかされました。

レトロニムについて調べていたら、ダイヤモンドという2人組の芸人さんが、このレトロニムをネタにして漫才をしているという情報が出てきました。YouTubeを見ると、前半では一般的な例を出しているのですが、後半に向かっては、漫才ならではのレトロニムが出てきます。
「飲むヨーグルト」があるから、そうでないヨーグルトを「食べるヨーグルト」と呼ぶ。「無農薬野菜」があるから、そうでない野菜を「農薬野菜」と呼ぶ。「ナチュラルローソン」に至っては、一般のローソンを「不自然ローソン」と呼んでいました。さすがです。