選手村ボランティア(2)
ボランティアのお仕事 その1
選手村には、選手や関係者が大会期間中に宿泊する建物が21棟ある。14~18階建ての高層マンション群だ。初日に割り振られた仕事は、そこに4つある「居住者センター」の1つでの受付だった。
8時半集合で6人のボランティアがその持ち場についた。40~60代くらい、全員が女性だった。初出勤は私1人。すでに数日目、もう7日目という人もいた。私はワクチンの効果が出るまで活動しないと決めたが、みな、それ以前から動き出している。
受付には、宿泊者からさまざまな依頼がくる。清掃依頼、シャワーが出ない・トイレが詰まったなどのメンテナンス依頼、会議室を使いたい、タオルやシーツの交換、アイロンなどの貸し出し、落とし物や拾得物の届け、などなど。
初日の私がすぐにできる一番簡単な仕事は、タオルの担当だ。選手たちはトレーニングなどに使うため、タオルを取りにくる。 コロナ禍なので、こちらが手に取って差し出すことはしない。選手に自分で取ってもらう。タオルが少なくなれば、裏の棚から運んでくる。
タオルを持っていく人みんなに、私は「ハロー」「グッモーニング」と笑顔で応える。マスクで口元は隠れているから、目を精一杯やさしい表情にする。 それに対して、無言でさっと取っていく選手もいれば、「もらっていくよ」とでも言いたげな眼差しでこちらを見る人、「コンニチハ」とにこやかに声をかけていく人もいる。 お国柄もあるだろうが、試合を控えて緊張している選手もいるだろう。それにしても、背の高い選手が多いこと。みんなバスケットかバレーボールの選手に見えてしまう。人間観察だけでも楽しい。
もちろん、選手に見とれるだけでなく、他の仕事もした。とはいえ、何百枚とあるバスタオルを三つ折りにしたり、使用済みのペンをアルコールで拭いたりという簡単な仕事が多いのだが。その合間に、他のボランティアに教えてもらいながら依頼をパソコンに打ち込むなどして、少しずつ覚えていく。
大会の職員として働いているスタッフは、込み入った問題に掛かり切りのことが多い。ほとんどのことは先輩ボランティアが教えてくれた。
シャワーが出ないので直してほしいという依頼が何件もあり、不思議だった。日本の技術力でも、そんなことが起こるのだろうか。先輩に尋ねると、
「延期になって、1年間使わずにいたというのがやっぱり問題らしいわよ」
と、すかさず答えが返ってくる。
貸し出し用アイロンが出払っていると聞き、外国人がまめにアイロンをかける姿をイメージできずにいたら、
「明日が開会式だから、ユニフォームや国旗にアイロンが必要らしいわよ。でも、貸し出したアイロンがなかなか戻ってこなくて、困っているところ」
と教えてくれる。
2年前、ボランティアの最初のオリエンテーションでのことをふと思い出した。「6名ずつのグループになって、新聞紙を使ってできるだけ高いタワーを作る」という課題を与えられ、 すぐにみな意気投合して取り組んだ。 初めて出会った者同士が、協力し合い、教え合い、同じ目標のために共に行動する。まさに、このボランティアの現場で発揮されるべきチームワーク力を教わったのだった。
1時間の食事休憩をはさんで、初日は15時半に終了した。
流れはだいたいわかった。この受付の仕事には細かい役割分担があるわけではなく、みな自分にできる仕事を自分で見つけている。パソコン入力を一手に引き受ける。バックヤードの仕事に専念する。全体を見回して、臨機応変に対応する。それぞれが自分の考えで動いている。
「ボランティアは、1日働けばもう中堅だよ」
帰り際、スタッフに言われた。中堅とはいかないまでも、不安はない。やっていけそうだという手応えを感じながら、帰途についた。