選手村ボランティア(1)

カラフルで躍動する街

 翌日がオリンピックの開会式という日が、私のボランティアの初日だった。割り当てられた役割は「選手村の運営に関するサポート」である。何をするかは研修で大まかに聞いてはいたが、具体的なことは何もわかっていない。不安8割、期待2割で向かう。
 ボランティアは家からユニフォームを着ていくことになっている。青いポロシャツ、グレーのズボンに運動靴、そしてバッグ。どれにも「TOKYO 2020」と書かれている。人の目を気にしながら、電車を乗り継ぐ。乗客はみなスマホに忙しく、誰も気にしないようすに、ほっとする。強固なオリンピック反対派もいると聞いていたから。
 大江戸線の勝どき駅から選手村までは15分ほど歩く。要所要所に警察官が立っている。福岡県警とか大阪府警とか書かれているのを見て、警備のため全国から派遣されているというニュースを思い出す。自衛隊のトラックが目の前を通り過ぎる。迷彩柄の制服の自衛官が何人も乗っている。ものものしさすら感じる。
 選手村に入るにはアクレディテーションという写真入りのIDカードが必要だ。手首の検温のあと、事前に受け取っていたカードを機械にタッチし、顔はカメラに認識させる。確認が取れれば、その先の手荷物検査へ。迷彩柄の自衛官がX線検査を受け持っていた。その先にあるボランティア用のチェックインコーナーに行く。
「今日は1日目ですね」
と確認を受け、ランチ用のミールクーポン(食券)、塩分補給用のタブレット型キャンディ、ペットボトルの水1本、体の汗を拭くシート2枚をもらう。これらの手順を経て、やっと入村となる。
 海の脇の道を人の流れに沿って、集合場所に向かう。ユニフォーム姿のボランティアだけでなく、私服の人も多い。何の仕事だろうか。警察官や自衛官も行き交う。左手の海には海上保安庁と書かれた船が停泊している。
 右手に宿泊棟が見えてきた。高層マンションのような建物が何棟も続く。そのベランダには、国旗や国名が書かれた大きな横断幕が取り付けられている。大勢の選手を送りこむ国は、何フロアも陣取っているのだろう、縦に何フロアも同じ色が続き、それ全体が大きな国旗となっている。長い垂れ幕もあって、国名のアルファベットが縦に並ぶ。どの建物もあざやかな色で彩られている。
 ジョギングする女子選手が、私を追い越していった。無駄な肉のないしなやかな肢体を後ろから眺める。見上げるほどの背の高い男性2人が向こうから走ってきた。長い脚に見とれているうちに、あっという間にすれ違った。
 6月末に研修でこの選手村を訪れたときとはまったく違う。モノクロの世界から天然色の世界へ、人の息遣いが感じられない場所から躍動する街へ。ガラリと変わった。
 なんだかワクワクしてきた。不安と期待が入れ替わる。期待が8割、いや10割に跳ね上がった。

*「選手村ボランティア(2)ボランティアのお仕事その1」に続きます。