病院選び
9月末の日曜日、足をケガした。散歩中、緩やかな上り傾斜の場所を、少しだけ急いで上がろうとしたとき、右ふくらはぎがパキッと鳴った。右足を地面に付けると痛くて歩けない。とはいえ、歩かなければ痛みはそれほどでもなく、救急に駆け込むこともなさそうだ。一緒にいた夫に助けられて家に帰った。
私にはかかりつけの整形外科がない。翌月曜日に行く病院をどこにするか、悩んだ。候補は3つある。
Aクリニックは電車で2駅先にある。評判を聞いて腰痛のときに通ったことがあり、理学療法士の腕もよく、そこなら安心して任せられる。だが、歩けない私には遠い。
B医院へは歩いて12分ほど。地元の友人から「この辺りでは信頼できる医者よ」と教えてもらったが、行ったことはない。
C医院は歩いて2分という申し分ない場所にあるが、気の進まない理由がある。知人の息子が小学生のとき、股関節の重篤な病気を見つけてもらえず、数ヵ月も痛み止めの処方だけだった。20年も前の話だが、心に引っかかっている。
タクシー代の出費も考えて、Bに決めた。
超音波検査で肉離れと診断された。2週間は絶対安静、完治には2ヵ月かかる、きちんと治さないと癖になる、などとていねいな説明を受け、痛み止めの湿布薬が処方された。B医師は40代くらいか、患者の目をしっかり見て話す。電気治療で筋肉に刺激を与えると、血流が促され回復が早まる効果があるということで、週に3日ほど通院。最初の2週間はタクシーを使った。
Bを選んだのは正解だった。けれども、特別な治療はなく、電気治療ならCでもよかったのかもしれないとも思えた。
地元の鍼灸師に時々施術してもらうことがあり、病院選びに悩んだ話をしてみた。職業柄、整形外科事情についても詳しい。
「私もCはあまり……という話はたびたび聞きますよ。肉離れであってもきっちり治す必要がありますから、Bでよかったと思います。Bの良い評判は聞きますから」
美容院でも、同じ話をしてみたところ、
「同僚が腕をケガして、近いからとCに駆け込んだら、骨折と診断されて。でも、お客さんに看護師さんがいて、数日後に腕のようすを見て、骨折じゃないかもって。それで他の病院に行ったら、骨折じゃなかったんですよ」
と言うではないか。
Bが正解だったことははっきりした。しかし、Cについてはもやもやが残る。数少ない情報ではあるが、こういう評価なのに、つぶれることなく、ビルの1階に少なくとも20年以上存在している。なぜだろう。理解しがたい。医師がやさしいとか、昔からの常連が多いとか、何か理由がありそうだ。小さなケガをしたら受診してようすを見てみようか。
本作品を書くにあたっては、一つ悩んだことがあります。今月の話題の「悪口は書きたくない(その2)」も併せてご覧ください。
本作品だけで話が完結するよう、ケガの経緯についても触れたため、今月のエッセイに掲載の「足をケガして(前編)」の内容と多少重複していること、ご了承ください。