展望デッキから見えたもの

 2023年12月30日の夕方、東京へ帰るために、夫と福岡空港にいた。用事が早めに終わり、時間の余裕をもって夜7時のフライトを予約していたため、私たちは空港で時間を持て余していた。展望デッキにでも行ってみようかと、ターミナルビルの4階屋上に向かった。
 福岡は東京より日が暮れるのが遅く、5時ごろでもまだ夕暮れとはならない。空港を見渡す。こんなに大きな物がよく空を飛ぶなあと、いつも感心してしまう。
 このビルと平行に滑走路が伸びている。右手の空のはるか遠くに、小さく光るライトが見えた。まだまだ遠いのだろう、飛行機は豆粒にしか見えない。しかし、光はぐんぐん近づいてくる。1機が滑走路に入り込んだ。え、降下してきているのに危なくないの? そう思う間もなく、轟音と共に加速して左側の空に舞い立った。右方向からの機体はどんどん大きくなって、無事にランディング。右の空には、次に着陸する小さな光がもう現れている。そんななか、また飛行機が滑走路に進入し、飛び立っていった。
 別の小さめの機体が、滑走路には入らずゆっくり移動するのが目に入った。どこに向かうのかと何気なく眺めていると、ゴーという爆音が鳴り響き、遠くにいたはずの飛行機が降り立ったことを知る。右方向には、もう次の光が小さく見えている。
 ニューヨークに住んでいた頃、ニューアーク飛行場の横のフリーウェイを走っていた時のことを、夫も私も思い出した。マンハッタンに近い、ニュージャージー州の空港である。
「あの時も、着陸する飛行機のライトが、次から次と近づいてきて、怖いくらいだったよね。もう30年くらい前のことだけど、忘れられないわね」
「都会に近い空港って、そういうものなのかな。管制官も大変だなあ」
 過密とも言える状況をさばく管制官はいっときも気を抜けないだろうし、機長もまた相当に神経を使うにちがいない。しばらくの間、離着陸から目が離せなかった。
 それだけに、3日後、正月2日の羽田空港の衝突事故は衝撃だった。旅客機に炎が迫る中、乗客乗員379人全員が脱出。海上保安庁の航空機は、前日の大地震の地、能登への支援物資を運ぶ予定だった。夫と私は言葉もなくニュースに釘付けになっていた。