国民性にも影響?
30年前、夫の転勤でアメリカのデトロイト郊外に住んだことがある。広い敷地に、2階建ての家が4軒連なるタウンハウスが、大きな池を囲んで何棟も建っていた。
2階は寝室が3部屋、1階はだだっ広い部屋ひと間だけ。前任者から受け継いだ大ぶりのソファーセットとダイニングテーブルを置いても、幼い子どもたちが走り回れるほどのスペースが残る。収納場所も多く、何でもしまうことができて、部屋はいつもすっきり。
日本で読んでいた主婦向けの雑誌やインテリア雑誌には、必ずと言っていいほど収納特集が組まれていた。「目から鱗のアイディア収納」「捨てられない人の片づけ術」。そんな見出しが並んでいた。私の関心事も、狭い部屋をいかにして暮らしよくするかだった。
ところが、アメリカのインテリア雑誌には、そういう記事は一切載っていなかった。美しくゴージャスな部屋の写真ばかり。どうしたら、こんなショールームのような状態を維持できるのかと思っていたら、あるお宅に招かれて納得した。客を迎え入れる応接間へは、普段は子どもを入らせないのだ。子どもには専用のプレイルームがあり、家族が集うファミリールームも別にあり、応接間は客が来たときにだけ使う部屋だった。
アメリカ生活を終え、日本でまた細々とした片づけの毎日に戻った。そして感じた。この家の広さの違いは、人間形成に大きく影響を及ぼすのではないか。常に身の周りを気にする近視眼的な見方と、細かいことは気にしない大局的な見方。国民性の違いすら生まれるのではないかと思った。
ここ数年、片づけコンサルタント「こんまり」こと近藤麻理恵さんはアメリカで大人気だ。著書が英訳されてベストセラーになり、昨年は動画サービスのNetflixで冠番組を持った。広いアメリカと言えど大都市ではコンパクトな住まいも多くて収納や片づけに興味がある人が多く、また、広い家だからこそ物が多くなって手に負えないという悩みもあるそうだ。どうやら、国民性を語る問題ではなかったようだ。
2020年の自粛期間中に、東京都の公式動画チャネル「東京動画」で「近藤麻理恵(こんまり)さんのお片づけポイント」を見ながら、そんなことを思い出していた。