うちの「わが家の味」

 独りで暮らしている息子が、夕飯を食べに家に来ることになった。献立は何にしようか。久しぶりのわが家での夕食、喜ぶものを食べさせてやりたいと考えていて、ふと気になった。うちの「わが家の味」は何だろうかと。

 忙しいときは惣菜を買ってくることもあったけれど、子どもが小さいうちは、なるべく手作りを心がけていた。野菜を食べさせなくてはという思いが強く、煮物や葉物のお浸しなどは必ず作った。野菜たっぷりの豚汁は秋から冬の定番で、豚肉抜きでもよく作った。子どもが好きだったのは、ご多分に漏れず、鶏の唐揚げ、ハンバーグやグラタンだが、副菜は多めに添えるようにしていた。料理に手をかけていたという思いはある。

 しかし、久しぶりに息子が食べて喜ぶものとなると、「これぞわが家の味」と言えるものが思い浮かばない。考えに考えて、結局コロッケを作った。ひき肉と玉ねぎ、そして子どもが小さい頃の名残でにんじんも小さく刻んで炒め、つぶしたジャガイモに合わせて、衣をつけて揚げるポテトコロッケ。手作りならではのおいしさはあるが、特別な調理法もこだわりのスパイスもない、普通のコロッケ。

 息子にあとでメールして聞いてみた。君にとって「わが家の味」は何ですか?

――コレと料理名を挙げるのはむずかしいけど……。同じ料理でも、外で食べるのと、うちの味付けとはやっぱり違う。食べてみて「ああ、懐かしい」と思う味が、僕にとっての「わが家の味」だと思う。今回作ってくれたコロッケもそうだった。ごちそうさまでした。

 そういえば、私も実家の味は何かなと考えたとき、料理名は何も思いつかなかった。けれども、母が家族のことを思って愛情込めて料理する姿、そしてその味はしっかりと覚えている。うちの「わが家の味」はそうやって受け継がれていくのだろう。