大人の社会科見学
食品トレーの会社を訪問し、数人の同世代の女性と一緒に見学させてもらう機会があった。生鮮食料品や惣菜、弁当などに使われるプラスティックの容器を製造しているメーカーだ。
スーパーで買い物をすれば、肉も刺身も必ずトレーに載っている。いくつか溜まると、店の入口にあるリサイクル用のボックスに入れる。かさばるので重ねようとしても、どれも少しずつサイズが違う。最近は、白より色付きが多い。黒地に金色の図柄入りや、青地に白が流れるような模様もある。私の知っていることは、そのくらいだった。
最初に受けた説明によれば、日々、さまざまな試験や研究が行われているらしい。原材料である石油をなるべく使わずに製品化するには。レンジで温めても容器が熱くならないようにするには。揺れても水分が漏れないような蓋の開発。トレーに対する認識が足りなかったと感じる。もっと手軽に作られていると思い込んでいた。
しかし、コンビニやスーパーには、これ以上の開発は必要ないほど、使いやすそうな容器が溢れているように見える。それなのに、さらなる研究が必要なのだろうか。
「新しく開発しても、ライバル会社がすぐに似ている製品を作るので、常に先を行く必要があるのです」という答えが返ってきた。
リサイクル工場に案内された。スーパーの入り口で回収されると、ここに運ばれてきて、再生トレーとして生まれ変わる。その第1段階である選別場を見せてもらった。
体育館ほどの広い場所の片側に、巨大なビニール袋がうずたかく積まれている。中身のトレーはベルトコンベアーに載ってどんどん流れていき、両側に立つ人々が、白色、色付き、再生できない素材の三種類に選り分ける。白色は砕いて溶かし、再びトレーになる。色付きは、以前はトレーへの再生が難しかったが、色の分離がもうすぐ実現し、再生が可能になるという。
その選別は並みの速さではない。集中力もすごい。この工程には手作業が必要で、知的障がいのある社員が担っている。「ここでは、彼らの特別な能力に頼っています。定年まで正規社員として活躍してくれています」と、説明を受けた。
使い捨てにせず、再びトレーに生まれ変わらせる取り組みは、1990年に始まった。創業社長が、妻が捨てる前に洗っているのを見て、この日本ならきれいなトレーを回収して再生するという循環が行えるのではないかと考えたとか。たしかに、この選別場は、いやな匂いがまったくしない。人々がきれいに洗っている証拠だ。
製品の倉庫も見学した。細長く続く巨大な建物の中に製品が種類別に保管され、顧客からの要望に応じて毎日配送されていく。入口でヘアキャップと靴カバーを付けて中に入る。食品に接するものなので、清潔には十分に気を遣っているそうだ。
小学校の社会科見学で自動車工場や製菓工場に行ったときは、ただ「ふーん」と思って見ていた。しかし、大人になると、関心の度合いも理解度もまったく違う。見学が楽しい。今回は身近にある商品だから、疑問もわいてくる。他の女性たちも同様のようだった。
1万種類以上を作っていると聞いて、外国ではそんなに種類はありませんよね、それどころか需要があるのかしらと声が上がる。日本では料理に合わせて食器を選ぶ和食の文化があり、それが関係しているのだと思いますと、担当者は答える。
スーパーに集まる使用済みトレーはけっこうな量になりそうだ。重量はなくても、かさばって容量は大きいだろう。それをどうやって回収するのか。スーパーに注文品を配送したトラックが、荷物を降ろして空になった荷台に載せて帰るという。ビジネスの中にリサイクルがしっかり組み込まれている。
スーパーで回収されたトレーのうち、トレーとして再生できるのは、現在のところ柔らかいタイプだけだ。
「いわゆるプラのリサイクルとして集められた物には、さまざまな素材が混じっているので、トレーに再生するのはむずかしいのです。柔らかいタイプを洗って乾かして、スーパーの回収に出してもらえると、こうして再生できます。しかも、原料から新たに作るよりCO2排出量が30パーセントも削減できます」
現在、再生トレーを作っているのは、この会社だけだ。
これまでスーパーでの回収に協力はしていたが、今後は自覚をもって参加しよう。社会科見学のおかげで、意識が変わりました。