『てぶくろ』

 2022年3月のニュースは、ロシアのウクライナ侵攻を連日報じていた。小さな子どもたちの泣き顔や怯えた表情。無差別の攻撃に巻き込まれ、日常の生活を破壊され、食事も寝る場所もままならい。
『てぶくろ』という絵本がウクライナの民話だと知って、戦禍にいる子どもたちの姿がさらに身近なこととして迫ってきた。息子たちが小さいころ、何度も読んで聞かせた絵本だ。
 森を歩いていたおじいさんが、雪の上に手袋を片方落としていった。そこへネズミがやってきて、手袋の中に住みつく。カエルが来て、「私も入れて」「どうぞ」と言葉を交わして、中に入る。ウサギ、オオカミ、イノシシと続き、クマまでやってきて、「私も入れて」と手袋の家に住みつく。落とし物に気づいたおじいさんが戻ってくると、動物たちはあっという間に逃げ去り、手袋だけがぽつんと森の中に残される。
 ページをめくるごとに新たに動物が仲間入りして、手袋の中は最後にはぎゅうぎゅう詰め。何度も読んだ息子たちはストーリーを知っているのに、わくわくしながら、目を輝かせて、次の動物の登場を楽しみにしていた。
 手袋は皆が共生する平和な社会の象徴なのだろうか。散り散りに逃げていくラストは何を意味するのか。今読み返すと、気になる終わり方だ。
 当時は、絵本の意味することまで気に留めることなく、ただただ楽しく読んでいた。 いろいろな動物が手袋の中で一緒に住んでいるシーンが、 息子たちの心のどこかに残っていればうれしいが、忘れてしまってもかまわない。絵本はそれでいいと、私は思っている。
 ウクライナの子どもたちに、絵本を楽しむ日常が早く戻りますように。未来を担う子どもたちが健康に暮らせて教育を受けられる、平和な世の中となることを心から願う。