手紙の整理 第1回目
思い出の品は、どれを残し、どれを取っておくかを選別するのがむずかしい。家の中に溜まった品々を整理するとき、一番気になっているのについ後回しにしてしまうのが手紙だ。4月から5月にかけて家に籠る日が続き、意を決して手紙の整理に手を付けることにした。60年分の手紙の箱は、天袋の奥や寝室のタンスの上など、あちこちに散在している。居間の床にすべて出してみた。
最近は、メールのせいで手紙を書かなくなった。如実にそれがわかる。35年前、友達からのカードに、〇月〇日に東京に行くので会いましょうと書かれていた。返事が来ないので、伝わっているか心配していますというのもあった。当時はそうやってやり取りをしていたのだと、時代の変化を改めて感じる。
忘れていた自分の過去とも遭遇した。小学生の私は、転校した女の子と文通して、互いの学校のようすを細かく伝え合っていた。思春期の頃は、女友達とあこがれの男子の話ばかり。読んでいて恥ずかしくなる。
父の手紙が出てきて、心が震えた。ひらがなで書かれた、出張先からの絵葉書。高校受験に向けて心構えを諭す手紙も出てきた。親に心配をかけることがあったのだろうか。
夫の両親からの手紙は、夫の転勤でアメリカに暮らしていた時期のエアメールが多い。時には月に2、3回、異国に暮らす息子家族を案ずる長い文章が達筆で送られてきた。ちょうど今の私の年齢と同じ、まだまだ元気だった頃の姿が思い出される。
子供たちからもらった手作りのカード。かわいらしい字に一生懸命描いた絵は一生の宝物だ。
親や子供からの手紙はすべて残しておきたい。友達とのやりとりは、1人1通だけ残そうか。年賀状は何年かたったら処分する。などと自分なりのルールを作って仕分けしようとするが、すぱっと割り切れるのは年賀状くらいだ。
少なくとも、見ようと思ったときにすぐ取り出せるよう、送り主ごとに分類して1つの箱の中にしまうことにした。5年ほどしてから再度見直せば、もう少し厳選できるだろう。
「年をとると、捨てられなくなるものよ」
と言っていた母の言葉が気にかかるが。