私の名前
最近の女の子の名前はみなかわいらしい。
結衣ちゃん。さくらちゃん。葵ちゃん。「愛」や「花」という漢字を使うのも人気だそうだ。
生命保険会社の名前ランキングによると、平成時代の後半に7回も第1位に輝いた名前は「陽菜」ちゃんだった。
「お名前は?」
「ひな、です」
「どういう字を書くの?」
「太陽の陽に、菜の花の菜。陽の当たるところに咲く菜の花のように、人から愛される人間になりますようにと、親の願いがこめられているんです」
と答えるかどうかは知らないが、そういうイメージがある。
その名前ランキングで「○子」が優勢を誇っていたのは、昭和30年代までだ。私の名前は「泰子」という。その年代に生まれているのだから、名前に文句はない。けれども、この漢字を素直に受け入れられない時期があった。
「どういう字を書くの?」
「天下泰平の泰に、子どもの子です」
他に考えられる熟語は「安泰」「泰然自若」など。どれを取っても、「どっしり」「ゆったり」「落ち着きのある」という意味だ。
うら若きころ、異性にこの漢字を教えるのが恥ずかしかった。どうして、もっと可憐な美しい漢字を選んでくれなかったのだろうと、親を恨み、わが身の不幸を嘆いたものだ。
かくいう私も年月を経て、さまざまなことを経験してきた。多少のことが起きても揺らぐことなく、どっしりと構えて対処している。まさに名前のとおり。それほど悪い名前じゃなかったねと思えるようになった。ずいぶんかかったけれど。