配偶者のことを、エッセイではどう書きますか?

エッセイに配偶者を登場させたとき、どのような呼び方で書けばいいでしょうか。

地の文においては、「」「」を使うのが一般的とされています。

◎妻側から見た配偶者の呼び方
「夫」のほかには「主人」が考えられますが、「自分の仕える人」という上位関係の意があるため、この言葉の使用を避ける傾向にあり、「」が一般的に使われています。
セリフにおいては、「主人がお世話になっております」「うちのダンナったらねえ……」のように、基本的には発言者の呼び方をそのまま使います。

◎ 夫側から見た配偶者の呼び方
「妻」のほかには「家内」や「女房」が考えられます。「家内」には「家の中に閉じこもる」イメージがあります。「女房」の「房」は部屋の意で、もとは宮中の部屋に住んでいた身分の高い女官を、後に貴族の侍女を意味しました。いずれの呼び方も、現代の女性から敬遠されそうな、一時代前の呼び方とも受け止められ、「」が一般的な言葉とされています。
セリフにおいては、「家内も喜ぶでしょう」「かみさんに叱られちゃってさあ」のように、基本的には発言者の呼び方をそのまま使います。

◎ 一般的だが絶対ではない
ある女性は、「エッセイで『夫』を使うのはどうもしっくりこない。気持ち的には『主人』を使いたい」と言いました。
ある男性は、「『妻』よりも『家内』と書くほうが、私にとっては自然だ」と感じていました。
もちろん、自分が書くエッセイですから、自分の使いたい言葉を選択することに問題はありません。「夫」も「妻」も一般的に使われていますが、絶対にというわけではありません。
とはいえ、言葉のもつ意味や読者に与えるイメージをも考えたうえで、言葉を選びたいものです。 エッセイを書くときには言葉についても敏感でありたいと思っています。

◎ セリフ内の呼び方には工夫も必要
エッセイでは、セリフによって臨場感や発言者の雰囲気が伝わってくるので、ぜひ書き入れたいものです。セリフは発言のとおりに書いていいとは言いますが、時には工夫が必要になります。

あるエッセイで、筆者の母親が
「おじいさんはどうしているかねえ」
とつぶやく場面がありました。
おじいさんとは誰のことだったかな? と疑問に感じて筆者に聞くと、筆者のお父さん、つまり「母親の夫」のことでした。家族内では、夫のことを孫の目線で「おじいさん」と呼ぶことはたしかにありますが、読み手にはわかりにくい結果となってしまいました。
発言のとおり書くのではなく、何らかの工夫が必要でした。その作品では、「おじいさん」という言葉がないほうが自然に読めるので、削ることになりました。
どう工夫するかは作品によって違います。都度、解決方法を探りましょう。

◎ おまけ:息子や娘の配偶者の呼び方
息子の配偶者は「嫁」、娘の配偶者は「婿」という呼び方がありますが、「嫁」は昔の家制度を思い出させ、家に嫁いできたような印象があります。「婿」というと、婿入りや婿養子のイメージが付きまといます。しかし、残念なことにほかの呼び方がありません。「息子の妻」「娘の夫」というのも、なにかしっくりきません。
特に女性の筆者には「嫁」という言葉を敬遠する気持ちが強く、「息子の妻」を語るときの苦労をよく耳にします。
・最初だけ「息子の嫁のマサコ」と書いて、その後は「マサコ」で通し、なるべく「嫁」という言葉を使わない
・少しでも印象を柔らかくしようと「お嫁さん」と書く
・ほかに言葉がないので「嫁」と書いてしまったが、このエッセイを息子夫婦に見せたくない

言葉狩りのようなことはしないほうがいい、と言う人もいます。気にしすぎると、これまでのいい意味での家族のつながりが失われかねないという意見でした。

意見や感じ方はいろいろあっていいですね。自分はどうするか。自分はどう書きたいか。ときどき、立ち止まって考えたいと思います。

*配偶者の呼び方の語感については、『日本語 語感の辞典』(中村明著 岩波書店 2010年11月25日発行)を参考にしました。