選手村ボランティア(3)

ボランティアの楽しみ その1 ランチ

 楽しみの一番目に「ランチ」が登場するのは恥ずかしい気もするが、1時間のランチ休憩は毎回楽しみだった。選手村で働くボランティアは、厨房で作られた温かいごはんを食べることができる。
 その日の活動場所で、昼食の時間が割り振られる。ボランティア初日、12時からの休憩となった3人で食事場所へ向かった。
 ボランティアの歩く動線は決められていて、選手たちと必要以上に近づかないようになっている。もちろん双方が通る歩道もあって、そこを歩くときは、ついつい選手たちを目で追ってしまう。有名選手を見かけないかなと期待するが、1万人以上の選手が参加するというし、マスク姿から判断するのはむずかしそうだ。
 歩道を照り付けるこの強い日差しを、選手たちはどう思っているのだろう。楽しそうに談笑している姿を見るとほっとする。暑いけどがんばってね!と、心の中でエールを送る。
 選手村の中ほどにある建物に着き、エスカレータで2階に行く。食事の場所に足を1歩踏み入れて、その広さに驚いた。400いや500人は入るだろうか。そこに居るのは、ボランティアだけではない。ユニフォームで、警備員、清掃担当、宅配便関連、自衛隊員などとわかる。相当数の人がこの選手村の運営に関わっている。
 ミールクーポン(食券)を見せて、まず大型冷蔵ケースから飲み物を取る。お茶、水、コーヒーなどのペットボトルが並んでいる。食事は定食か丼物の2種類。トレイを持って、どちらかの列に並ぶ。学食を思い出す。
 初日は定食を選んだ。丸い紙皿にポークソテー2枚、タラのフリッターのトマトソースがけ、千切りサラダ少し、そしてバナナのムースあえ。他に冷たいポテトスープ。ご飯かパンを選ぶ。厨房の中から「お疲れ様です」と声がかかり、私も「お疲れ様です」と応える。
 何十列も並ぶ長いテーブルの上にはアクリル板が設置され、黙食を促す注意書きも貼られている。
 席について、あっという間に食べ終えた。ふだんは少食の私だが、どれもパクパクと平らげた。おいしかった。お腹いっぱいになって、自分がリラックスしているのを感じた。やはり、新しいこと尽くめで緊張していたのだろう。
 ズドーン。頭上から地響きのような音が聞こえてきた。ズドーン。1回だけではない。先輩ボランティアが教えてくれる。
「上の階にはフィットネスセンターがあって、そこで重量挙げの選手が練習しているのよ。バーベルを床にドーンと落とした音よ」
 後日、そのフィットネスセンターの受付担当になり、ドーンの発生現場を目にして、これが建物中に響き渡っているのかと納得した。
 ボランティアのランチは、先輩の観察によれば8日周期でメニューが変わるそうだ。私が出会ったのは、「冷やし中華」「野菜と肉丼」「から揚げ定食」などなど。
 食後にはアイスクリームが用意されている。冷凍ケースからバニラアイスかアイスキャンディを選ぶ。至れり尽くせりのランチでエネルギーをしっかりチャージして、元気に午後の活動に向かった。
 ランチの最後に毎回アイスクリームを食べて、幸せな気分になったからだろうか、家でも食後にあのバニラアイスの甘さが恋しくなる。私の個人的なオリンピック・レガシーになりそうな予感がする。

選手村ボランティア(4) ボランティアと新型コロナウイルスに続きます。