わが家のおせち

 2021年の暮れは、30日まで忙しく、正月の用意に残されたのは31日の1日だけだった。息子2人も来て家族が揃うので、おせち料理は何とか用意したい。前もってどこかから取り寄せることも考えたが、いつもの家庭の味を食べさせたい思いもあって、時間内でできるものだけを作ることにした。
 結婚してから毎年、夫の九州の実家に行き、義母のおせちを食べてきた。今は老人ホームで暮らしていて、このコロナ下では正月を共に過ごすことができない。その義母の料理を再現するのはむずかしく、私が作るのは、義母と私の実家とNHKの料理番組「きょうの料理」のミックスだ。
 普段は市販のだしも使うが、正月用には必ず昆布とかつお節でだしをとる。これは義母の影響。このおだしの雑煮はまろやかな香りで、本当においしかった。煮物用に二番だしもとる。
 昆布巻きは、私が子どものときから食べている豚肉の昆布巻き。誰に出しても好評の一品。昆布を5センチ幅にして、拍子切りの豚肉を巻き、かんぴょうで結んで煮る。
 煮しめは家族のみなが好きだから欠かせない。義母は一つ一つ煮しめていたが、時間も手間もかかる。かといって、一緒に煮ると、すべてが茶色になってしまう。義母が年とってきて、私の出番が増えてきたころ、3グループに分けて煮る方法を「きょうの料理」のテキストで見つけた。それを今も続けている。ごぼう・干しシイタケ・こんにゃくなどの黒いもの、ニンジンやレンコンの白めのもの、サトイモは単独で。きれいな色に仕上がる。できあがるたびに、夫やすでに来ている長男に持っていき、「はい、味見」と口に入れる。おいしいと言ってもらうのが、料理の活力になる。
 個人的に外せないのは、紅白なます。家族はそれほど興味を示さないが、甘酢好きの私は自分のために、大根と赤い京ニンジンを細くていねいにせん切りにする。
 ごまめも家で作るにかぎる。簡単で、かつパリッとおいしくできる。
 ぶりを焼き、数の子も縁起物だから用意する。塩抜きのため塩水につけた。
 栗きんとんは頑張って作ったこともあるが、あの裏ごしの労力を考えるとひるむ。昨年、近くの和菓子屋で買ったのがおいしかったので、今年も注文しておいた。
 その店には伸し餅1キロも頼んであり、長男に取ってきてもらった。市販の切り餅とはふっくら感がまったく違うと、餅好きの私は正月には伸し餅と思い込んでいる。子どものころの記憶がそうさせるのかもしれない。餅を切り分ける父を、横に座って見ていた。餅はくっつきやすくて、父はまな板に粉をはたき、切るたびに包丁を濡れ布巾で拭いていた。今の餅はそれほどくっつかないなあと独り言ちながら、餅を切り分ける。夫の実家では丸餅だったから、東京で迎える正月ならではの私の楽しみでもある。
 夕飯までに、ある程度なんとか作り終えた。海老はタイムオーバーであきらめた。夕飯の鍋に使うから、良しとしよう。黒豆は煮豆をすでに購入してある。義母が毎年おいしく炊いていたことを思い出す。
 一日中台所に立っていたので、腰が重い。しばし椅子に座り込む。
 料理好きの次男が夕方やってきて、鍋の用意をしてくれた。ふるさと納税で取り寄せた甘エビやホタテやカニを解凍して並べると、ごちそうになった。
 年が明けて、朝6時51分の日の出をマンションの窓の遠くに見てから、戸棚の上のほうにある重箱を夫におろしてもらい、料理を詰めた。前日にはそこまで手が回らなかった。かまぼこや伊達巻を入れても三段を埋める内容はないので、二段に詰めた。二の重の煮しめは、盛り付けのうまい次男に頼む。見た目も味のうち、最後の仕上げは大切だ。手を付ける前に、写真に収めた。
 昨年はコロナ感染が急拡大している時期で、長男は来なかった。こうして家族全員が集まるとなると、張り切って料理をしてしまう。その気持ちがあっても、年とともに作れるものが少しずつ減っていった義母のことを思う。私もそのうち市販のだしを使い、お煮しめは全部一緒に煮て、昆布巻きもあきらめ、それでも作り続けるのは、おなますだろうか。せん切りは大変で、スライサーに頼るだろう。餅は喉に詰まるからダメと言われても、食べてしまうかもしれない。