文芸オタクの私が教える バズる文章教室

『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』(三宅香帆著 サンクチュアリ出版 2019年6月15日発行)をご紹介します。

最近、書店で文章の書き方のコーナーを見ると、タイトルに「エッセイ」がついている本は少ないですね。「SNSで受ける文章」とか、「バズる文章の書き方」などが多く並んでいます。本をめくってみると、重要な箇所が目立つように太字や色つきの線で示した、いわゆるハウツー本ふうな作りもけっこうあります。横書きの本も多い。書き方の本は縦書きがしっくりくるなあなどと思いながら(エッセイ工房の記事はパソコンという縛りでやむなく横書きですが)、本棚を眺めていました。しかし、最近の本も毛嫌いせずに覗いてみるかという思いで、たまたま手を伸ばしたのが、今回ご紹介する本です。

装丁は若向き、中を覗けば、文章の横に引かれた線や項目の文字の色はピンク。「バズる」はタイトルだけでなく、章立てにも「バズるつかみ」「バズる文体」「バズる組み立て」「バズる言葉選び」として登場。そんなに「バズる」を目標としてないけどなあ……と思いながらも、文例として出てくる文章を見て、その守備範囲の広さに驚きました。明治時代の文豪から現代作家の小説や随筆、江戸小噺からアイドルのブログやシナリオに至るまで、タイトルに「文芸オタク」とあるのもうなずけます。また、バズるバズると書いてあるわりには、「どうすれば読み手に楽しんでもらえるか」という視点でこの本をまとめたと「プロローグ」に書いてあり、向いている先は、エッセイを書く私とそれほど違わないかもしれないと思い、読んでみました。

書評家の肩書をもつ三宅さんの文章の分析力には、目を見張るものがありました。なぜこの文章がおもしろいのか、なるほど、こういうふうに書いているからかと分析し、文章を書くときに気をつけるポイントを導き出します。そのポイントも、一般に言われていることから独自のものまで多岐に渡ります。

体言止めは一般にはあまり使い過ぎないようにと言われていますが、体言止めの効果を「文字量は少ないはずなのに、不思議と伝わる情報量が多い」といい、「もしも文章が長くなってしまって、『肝心の情報が伝わりにくいかな』と心配になったときは、一度、できる限り体言止めにしてみることをおすすめ」しています。

読点の打ち方は、文法的なことには触れず、「読点が多いほど、テンポが落ちて、親身になって話しているように読める」として、読み手との「距離を詰めたいときは読点を増やし、距離をおきたいときは読点を減らせばいい」という仮説を打ち立てます。

段落をどこで変えるべきかについては、「ひと息で読んでほしいところまで」と調査結果を発表します(書き手によって段落の長い短いはバラバラなのに、読みやすいのはなぜか、ずっと調査していたそうです)。段落の始まりが息を吸うタイミングで、途中で切り替わりのタイミングがあって、段落の終わりに向かって吐いていく。本当にすごい書き手は読み手の呼吸まで意識しているというのです。

49の書き方のポイントをあげ、どの項目においても、なるほどと納得させる文例を引用しています。
今まで考えてもみなかったアプローチ法が多く、私の凝り固まった頭に新しい風を吹きこんでくれました。

内容がしっかり書き込まれているので、項目ごとの最後の 「まとめてみた」は必要ないようにも感じましたが、これが今どきの「バズる」ための構成なのかもしれませんね。

三宅さんは、文章を書く理由を、「自分の思いや考え、発見を知ってほしい。そして、できれば『面白いじゃん』って思ってもらいたい」と言います。エッセイも同じです。それならば、このような新しい考えに触れて、自分を進化させてみよう。そう思わせてくれる本でした。