家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった+かきたし』(岸田奈美著 小学館文庫 2023年4月)をご紹介します。

2023年5月にNHKBSで始まった連続ドラマの第1話をたまたま見ました。
主人公の七実(ななみ)は高校生。母親が倒れ、緊急手術後に車いす生活になった。中学生のときに、父親は心筋梗塞で急死している。4歳年下の弟はダウン症。高校生で背負うにはあまりに重たい現実。ドラマにしては設定があまりに不幸満載すぎて、いくらフィクションでもこれはやりすぎではないか。そう思った私は、第2話以降を見るのは止めようと思いました。

ところが、調べてみると、自伝的エッセイが原作であることがわかりました。こんな現実ってあるのでしょうか。ドラマと並行して読み始めたのが、原作の『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』です。私が手にしたのは文庫本でしたが、単行本は2020年9月に刊行されています。その前年6月、著者である岸田さんがまだ会社員のときに、家族についての文章を 「note」というネット上の発信の場に投稿しました。すると、大きな反響を呼び、それがきっかけで作家として独立したそうです。

岸田さんの周囲には、いろいろなことが起こります。家族についてもさることながら、岸田さんの行動力が様々なエピソードを引き寄せます。
そのエピソードを書き進める際に、躊躇がありません。私がエッセイを書くときには、読み手のことを考えすぎてしまって、こういう書き方で読者に通じるだろうか、情報が少なすぎないかなどと、気にします。そういう躊躇がまったくない(ように感じます)。勢いとパワーで、推し進めていきます。美しい言い回しを考えるくらいなら、率直にスピーディに相手に話を届けたい、そんなふうに書いているようにも感じました。
と同時に、家族や友人を愛し慈しむ気持ちが、時にストレートに、時に遠まわしに綴られていて、読み手の心の奥を揺らします。

たとえもユニークで印象的です。
「いつもふたりセットだ」のあとに、「ペーがしゃべるなら、パーも。ミッチーが出るなら、サッチーも」と、これでもかと続きます。
かっこいい人を見て、「目で見るタイプの点滴だ」と表現します。
独特のたとえが、岸田さんの世界を作っているようです。

と、本書の紹介を書いてみるのですが、この独特の勢いを説明するのはむずかしくて、伝えきれません。気になった方は、ぜひ読んでみてください。
また、NHKBSのドラマが本書の内容を実にうまく描いていて、感心しました。脚本のうまさでしょうか。放映は終わってしまったので、再放送を見つけたら、こちらもぜひ見てください。