名文を書かない文章講座
『名文を書かない文章講座』(葦書房 村田喜代子著 2000年9月20日発行)をご紹介します。
発行後20年近くたつ本ですが、私は今も時折ページをめくり、確認しています。
本書に書かれている事柄は、すべてはじめて知ったことばかり、というわけではありません。特に文章の書き方については、なんとなく頭の中にはそういう知識があったような気がする……という内容が多いのです。けれども、それら1つ1つが平易な言葉でわかりやすく書かれていて、ああそういうことだったのだと頭の中のもやもやが文章化され、1つ1つを確認することができるのです。
本書では文章を恐れることはないと説きます。
たとえば、「構成」。日常の会話の中で、子どもでも構成を無意識に考えていると言います。子どもがお母さんにお小遣いを増やしてもらうときは、希望がかなうように効果的な言い方を考える。いきなり切り出すのではなく、徐々に友達の例なども出して、最後に希望を伝える。それが構成だというのです。と言われると、なんだか「構成」も難しいものではないように感じられます。
だからといって、簡単に読み終える内容でもありません。
I 基本篇 II 実践篇 III 質問篇 IV 独習篇 V 鑑賞篇 全285ページにわたり、いろいろな角度から文章の書き方を教えてくれます。
例文も多くてわかりやすい。たとえば、地の文だけの文章、描写だけで書くとどうなるか、セリフのみだとどうなるか。それぞれの例文を示して長所短所を見せ、読者に考えさせます。「文章を書こうとする人はどんな本を読めばいいのか」「平凡な日常生活に起こる出来事は、書くに値するものか」などという問いにも、なるほどと思う回答で教えてくれます。
本書で使われている「文章」は、すべて「エッセイの文章」に置き換えて読めますので、エッセイを書きたいと思う方に役立つこと間違いありません。
この本で一番好きな箇所が、前書き「百万人の文章」の中にあります。
著者がカルチャーセンターで文章講座を開講した時の挨拶です。
作品が誉められたら、自分の考え方や感じ方や書き方すべてがうまく絡みあったのだから大いに喜ぶように。作品がダメと言われても、それはちょっとうまくいかなかっただけだから、めげることはありません。
というような挨拶をしています。
このことはとても大事なことです。私が参加していたエッセイ教室でも、みんなの前で自分の文章のダメなところを指摘されると、自分自身が批判されたように感じて落ち込み、さらには教室を辞めてしまった方もいました。
ですから、この前書きを読んで、こういうことが書かれている本なら読んでみたいと思ったのでした。そして、それは大正解でした。