文章としてはまったく問題なく、そつなく書かれていても、読み手に何も響いてこないエッセイがあります。共感も、興味も、驚きも、何も感じないことがあります。他人に読んでもらうのが目的のエッセイなのに、それでは寂しい。
響いてこない作品は「この作品を通して何を伝えたいのか」という書き手の「伝えたい気持ち」が書き込まれていないことが多いようです。
わざわざ書いてまで伝えたい思いとは、感動新発見の喜び誰かと共有したい情報など、さまざまでしょう。自分の目を通してそれらを見た「わたし」がエッセイの中に存在することが、読み手に思いを伝えることにつながります。


3-1 「わたし」の存在
たとえば、旅のガイドブック。その場所まで電車に乗って何分、誰によって作られた建物か、開門時間は何時から何時など、そこへ行きたい人へ情報を伝えることが目的だから、「わたし」らしさは必要ありません。誰がその文章を書いても成立します。
エッセイは、それとは逆のところに位置します。違う人が書いても成立するのでは、まったく意味がありません。その人の作品としてのおもしろさはゼロになってしまいます。
旅に行ったという事実をただ書くのではなく、「わたし」がその旅の何を読み手に伝えたいのかを書く。この旅を書くことによって、「わたし」は何を読者に伝えたいのか。景色なのか、歴史なのか、人との出会いなのか、それとも……。自分に問いかけてみましょう

逆に、「わたし」が存在しすぎて、読み手が辟易することがあります。
たとえば、ペットについて書かれたエッセイ。かわいいかわいい猫ちゃんが、目に入れても痛くないかわいい猫ちゃんが、今日は私の膝に載ってきて甘えた声を出して、ペロペロ私の指を舐めて……のようなペットにメロメロのエッセイを読みたいでしょうか。「わたし」の思いが強く出すぎないように、 1歩離れて対象物を見て、どこがかわいいのか、なぜ好きなのか、「わたし」の気持ちを分析することが必要です。ペットや孫について書く時は要注意。

3-2 どう伝えるか
「伝えたい思い」を伝えるにはどうしたらいいのでしょう。こういうことがありました、こう感じました、と気のむくままに書くのでは、読者に届きません。
効果的な構成を考える必要があります。その場面を山場に持っていく、誰かにその思いを語らせる、紙面を多めに使って読み手の記憶に残す、その場面から書き始めるなどなど。
その思いを最後に「まとめ」のような形で書いてしまうことは、できれば避けたい。作品全体から伝わるのが最高です。

書いている途中で、伝えたいことが変わることもあります。それは、書くことで自分の心の中をじっくり見つめ、本当に伝えたいことを知るからです。ある程度書き終えてから、伝えたいことについて再度考えるのでもかまいません。
いずれにしても、「徒然なるままに」書けばいいのではないことを忘れずに、作戦を練ってください。

3-3 読者に伝わっているかを検証する
作品が仕上がったとき、「わたし」の思いが伝わるエッセイになったかどうかは、どのように確かめたらいいのでしょう。
それには、他人に読んでもらうことが一番です。とはいえ、多くの人にとって、家族に読んでもらうのは気恥ずかしい。エッセイ教室の存在意義はそこにあります。しかも、そこに通っているのは目の肥えた読者ばかり。意見や感想には素直に耳を傾けましょう。
読者がいない場合は、自分で声に出して読んでみます。できれば、書き終えて2,3日経ってからがいい。自分の作品を外側から見ることができます。黙読ではなく、声に出して耳から聞きます

3-4 特別な何かがなくても
いろいろなエッセイがあります。
誰も行かないような所への旅行のエッセイは、興味津々。新しいことを教えてくれるエッセイは、情報を得る喜びに繋がる。おもしろい作品は、読んでいて単純に楽しい。子育てや介護の話には共感を覚える。

自分はふつうに生活しているだけなのでエッセイのネタがないと嘆く人がいますが、あきらめることはありません。身の回りの些細な出来事の中にも、心を動かすことはあるはず。喜びや悲しみなどを感じたり、それをきっかけに昔のことを思い出したり。自分が気づかずに過ごしているだけです。アンテナを張り、自分の心に響いてくるものを探してみましょう。
身近なことから生まれた作品には「共感」を伝えるものが多い。老若男女の違いはあっても、経験や育った背景の違いがあっても、人間としての気持ちは通じ合います。読み手は作者の思いに寄り添って、作品を味わいます。 伝えたい思いさえあれば、エッセイに書く内容は特別な出来事である必要はありません。

3-5 タイトル
内容とタイトルがうまく絡んでいないエッセイを時々見かけます。読み取った内容とタイトルが乖離していると、読み取り方を間違えたのかと心配になります。奇をてらったタイトルではなく、伝えたい思いに沿ったタイトルを考えたいものです。