他人の文章は直せない

テレビ番組『プレバト!!』の俳句コーナーをご存じの方は多いことでしょう。
俳人夏井いつき氏が、芸能人が作った俳句を辛口で査定し、添削します。助詞を変えたり、語順を変えたり。夏井氏の手にかかると、あっという間に俳句が生まれ変わります。私のような俳句の素人が見ても、直した句からは作者の言いたいことがより伝わってきて、また情景も浮かび上がります。

エッセイにおいても、このようにパッと変身させられる添削ができるといいなあと、その番組を見ながらいつも思います。しかし、17文字の俳句だから、添削による変化が、視覚的にも見えやすいのでしょう。
800字や2000字の文章に手を入れることはできないと、添削のたびに感じます。

エッセイ教室に通うAさんが、友人との付き合いについて2000字で作品を書きました。ユーモアのある、読んでいてクスリと笑ってしまう楽しい作品です。
導入の部分の600字ほどで、その友人とのこれまでの経緯を説明します。その中に、「時のたつのは早いものだ」「あっという間に時は過ぎ」「瞬く間に年月が過ぎ」という同じような表現が何度も出てきました。ここは、もう少しタッタッタッと話を進めて本論に入ったほうが、本文のおもしろさが際立つのではないかと考えました。

教室に入って日が浅い方の作品だったので、どう説明しようかと悩みました。私が書き直したものを「一つの書き直し例」として渡したらどうだろうかと考え、同じ表現の箇所をばっさり削除し、テンポよくなるよう書き直してみました。
ところが、書き直し文を読んでみて、これはダメだと気づきました。Aさんは少しゆったりとした文章を書く方なのに、その持ち味が文章から消えてしまっていました。他人が書いた文章になっていました。この書き直し例を冒頭に入れたら、その後に続く文章とはミスマッチな印象を読者に与えることでしょう。文章には、その人特有のテンポがあるのですね。

Aさんには教室で、
「冒頭の部分に、同じような表現が〇行目と〇行目と〇行目に出てきているので、これらを整理すると、もう少しテンポアップすると思います。目安としては、冒頭の文が3分の2くらいの分量になるように、書き直してみてください」
と、口頭で伝えました。Aさんがこれを聞いてどう書き直すか、あとは本人に任せるしかありません。私の期待するほどテンポよく進まなくても、それがAさんのリズムということだと思います。

他人の文章を直せないと感じるのは、私がエッセイの師 木村治美氏から文を直されたことが一度もないからかもしれません。批評や直すべき箇所の指摘は数多く受けましたが、それをどう直すかは、筆者である私に任されていました。木村氏の著『知性を磨く文章の書き方』(PHP研究所 2000年1月発行)にも、「文章なんて、本当は他人に直せるものではない。そこまでしたらだれの文章かわからなくなってしまう」と書かれています。

ただし、次の場合は、私は文章を直しています。筆者が言わんとすることが読み手に通じない表現や文。文法的な誤り。そういう場合に限っては、書き直し例や他の表現例を示します。
それでも、どのように、どこまで手直しすべきかは、いつも迷います。人の文章を直すのはむずかしい。『プレバト!!』を見ると、うらやましくなります。