2月28日はエッセイ記念日
エッセイの元祖と評されているミシェル・ド・モンテーニュは1533年2月28日生まれです。この日を、私が所属する木村治美エッセイストグループ(KEG)が「エッセイ記念日」と制定しました。
モンテーニュの『エセー』を少しずつでも読もうと抄訳を購入したことを、3年前のエッセイ工房に書きました。しかし、難解で、理解不能。字面は追えても、それが何につながるのか、自分の体になかなか入ってきません。
ところが、現在再放送されている朝ドラ『本日も晴天なり』に、モンテーニュの一節が出てきたのです。しかも、わかりやすく。
ドラマのストーリーは、戦時中にNHK初の女子ラジオ放送員となった桂木元子が、戦後はルポライター、そして作家へと、昭和の時代に自分の生きる道を探し出していくというものです。
モンテーニュが最初に登場するのは、戦時中、主人公元子の兄が戦地から元子に宛てた手紙の中です。
この戦地でモンテーニュの原書にめぐりあい、人生、いかに生くべきか、彼の大テーマをこの戦場で改めて勉強している。だから、自分の部屋にある本はあなたにあげます。
「『魂の自由を大切にし、魂を抵当に入れてはならない』。彼の中の僕の好きな言葉と一緒に受け取ってください」
と手紙は結ばれています。
この一節は、主人公元子の胸に刻まれ、後に(今のところ)2回登場しました。
〇戦後、占領軍がやってきて、婦女子に乱暴を働くという噂がたちます。戦争は人々を狂気にすると言う上司に対して、元子は、
「でも、私の兄は違います。『魂の自由を大切にし、魂を抵当に入れてはならない』。兄がくれたモンテーニュの言葉です。どんな狂気の中にあっても、私の兄は絶対に女子供を殺したりなんか……」
と言い放ちます。
〇昭和40年頃、ママさんライターとして仕事をする元子は、女性の不倫のネタを記事にしろと言われて断ります。そのときの気持ちを元子は息子にこう説明します。
「戦死したお兄さんが残してくれた本の中にね、『魂の自由を売り渡してはならない』っていう言葉があるの。いくら仕事だからって、やってはいけないこともあるんだっていうふうに考えたの。それだけにあなたたちの母親として誇れる仕事をしようと思ってきたわ」
ドラマに出てくるモンテーニュの一節は、以下の文章の一部です 。
人間はだれもが、自分を貸し出している。本人の能力が本人のためではなく、服従している人のためになっている。つまり、本人ではなくて、借家人がわが家同然にくつろいでいるのだ。こうした一般的な風潮が、わたしには気に入らない。人間は自分の精神の自由を節約して使って、正当な場合でなければ、これを抵当に入れてはならない。(『エセー』第3巻第10章「自分の意志を節約することについて」 宮下志朗訳『エセー7』白水社 2016年4月より)
この部分だけでも、理解して自分に取り込むのはむずかしいのですが、このドラマが例とともに解説してくれたので、ようやく理解できました。
この朝ドラは、昭和56年秋から半年間放映されました。多くの人が見るドラマにモンテーニュが登場したということは、昭和のある時代までは、モンテーニュの『エセー』を読むことは教養として考えられていたのかもしれません。かくいう私も昭和生まれなのですから、もう少し教養を磨いておきたいものです。次回のエッセイ記念日に、またモンテーニュのことが話題にできるといいのですが……。