同じ言葉の重複

エッセイの合評でよく指摘されるのが、同じ言葉の重複です。「こと」や「私」はその筆頭に挙げられがちです。また、何かについて説明する文章では、ある段落にだけ、何度も出てくる言葉があります。たとえば、ピアノについての話で、毎行のように「ピアノ」という言葉が現れた場合は、たとえば5回出てきたら、2つか3つは削れますよとアドバイスします。

言葉の重複は避けたほうがいいと思っているのに、教室でそれを指摘するときに、「重箱の隅をつつくようで申し訳ありませんが」と前置きしてしまう場合があります。内容もおもしろくて、文章も上手な作品に対して、「こと」が多いですよと指摘するのは気が引ける。それは、なぜなのでしょうか。
重複が多くてはいけない理由を、私自身がきちんと理解していないのかもしれません。そう思って、本やネットで調べてみました。
しかし、「重複を避けましょう」と書いてあっても、避けるべき理由をはっきり書いてあるものは数多くはありませんでした。理由は自明ということなのでしょうか。
理由が書かれていたものをいくつか紹介します。

○重複が多いと、文章のリズムが悪くなり、稚拙な印象を与える
「文章の書き方」大事な順ランキングの26位に「同じ言葉の重複を避ける」が挙げられている。言葉の重複を避けると煩わしさがなくなって、文章がすっきりする、と書かれている。(『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』藤吉豊・小川真理子著 日経BP)

○同じ言葉を多用すると文章が下手に見える/文章を繋ぎ、重複する言葉を削ると、読みやすく、すっきりした文章になる(『鳩よ!』第16巻第6号 マガジンハウス)

○重複が気になるのは、書き手側の理屈を超えた美意識がはたらいているから
「たとえば『見る』が続くと、なんとなくかっこうが悪いように感じてしまい、他の言葉を探す」。理屈ではなく、書き手としてそう感じると書かれている。(『エッセイ脳』岸本葉子著 中央公論新社)

○重複を取り除くだけで、文章は一気に洗練されていく
重複は、単語だけでなく、助詞や文末表現、文の構成においても起こる。重複チェックをしていくと、文法の誤りや言葉選びの甘さ、リズムの悪さ、そのほかの問題までがあぶり出される。(『新しい文章力の教室』唐木元著 インプレス)

重複を少なくする理由は、一ランク上の文章を目指すということだと、私は理解しました。そして、上記の『新しい文章力の教室』に書かれているように、重複のチェックは、文章を何度もしっかり読み直すことにつながり、それにより、重複以外の問題点が見えてくる。読みづらい箇所があったり、もっとスッキリした表現にしたいとか、この文は違う場所にもってきたほうがいいなどと気づいたり。重複チェックの先には、ほかの課題も見えてくるというメリットがあるようです。

私の経験でも、推敲の際に「楽しい」という表現が多い気がして、しっかり読み直したところ、「時間」という言葉を12個発見したことがあります。「時間の余裕」「時間を割く」「書く時間」「時間を費やしている」「時間をかけて」などのうち、半分ほどは違う表現に変え、その際に気づいた他の表現も修正。満点とはいえませんが、一ランク上に近付けて、完成としました。