続・セリフを書くときに注意したいこと

前回の今月の話題「セリフを書くときに注意したいこと」では、セリフを受ける「」に注目しました。今回は、セリフの内容について考えてみます。

・地の文のようなセリフ

散歩中に、パン屋を見つけた。匂いにつられて入り、お勧めを聞くと、
「ふんわり食パンは、ミルクがたっぷり練り込まれて、ほんのり甘いのが特徴で、評判がいい」…(1)
とのことだった。

上記(1)のセリフについて考えてみます。
これはセリフと言えるでしょうか。誰かに話すときの言葉ではなく、地の文で書かれた説明のようです。きっと、パン屋さんが話してくれた内容を筆者がわかりやすくまとめたため、説明のようになってしまったのでしょう。
「 」に入れてセリフとして書くならば、会話の言葉(話し言葉)らしく書きたいものです。実際には、どのように話したか、思い返してみましょう。

「こちらのふんわり食パンをぜひどうぞ。ミルクが練り込まれてほんのり甘くて、評判いいんですよ」…(2)

このようなセリフのほうが、話し言葉として自然に感じられます。店員が男か女か、年齢によっても、言葉遣いや表現は変わってくるでしょう。

しゃべったとおりに書くべきか
そのパン屋さんが非常にくだけた感じで、こんなふうに話しかけてきたらどうしましょう。

「このふんわり食パンがいいんじゃね? ミルクが練り込んであってさ、やばいくらいおいしいよ」… (3)

パン屋の店員としてはフレンドリーすぎることに驚いたと話が続くのなら、このセリフをそのまま書く必要があります。
ところが、店員について何も言及せず、おいしいパンを買って帰るだけでこの場面が終わるのなら、このセリフはかえって邪魔になります。こんな話し方をする店員とはどういう人?と、読者に疑問や違和感が残ってしまいます。

疑問や違和感を残すセリフは、読者をそこで立ち止まらせ、話の流れをも止めてしまう可能性があります。そうであれば、事実とは多少違っても、セリフを(2)のような、あまり特色のないものに変えたほうがいいでしょう。
エッセイは事実を書くのが前提ですが、時にフィクション(創作)も必要です。セリフにおいてフィクションが必要になるのは、こういう時なのです。

2回続けて、セリフを入れることのメリット・デメリットや書き方の注意点などをお話しましたが、まずはあまり深く考えず、心に残ったセリフを書き入れてみてください。