テーマで書くか 自由に書くか

私が学んでいた教室では、エッセイのテーマが与えられることはなく、自由に書きたいことを書いてきました。ですから、講師として教室に携わることになった時も、「好きなことを書きましょう」という方向性で進めたかったのですが、「何を書いていいかわからない」「何か“とっかかり”があったほうが書きやすい」という声が多く、3回のうち2回はテーマを出すことになりました。

「テーマはどのような基準で決めているのですか? エッセイがうまくなるテーマの順番があるのですか?」
という質問を受けることがあります。

こういう順番で書けばエッセイが上達するというテーマは残念ながらありません。
毎月の教室でのテーマは、「書くきっかけ」として活用してほしいので、さまざまな解釈が可能で、誰にでも経験がありそうな、エッセイが書きやすいテーマを心掛けています。名詞だけでなく、動詞や形容詞もテーマになります。
たとえば、「忘れえぬ人」「20歳の頃」「捨てる」「おいしい」などは、エッセイが書きやすかったと言われたテーマです。

とはいえ、いつもいつも、誰にでも書きやすいテーマというわけにはいきません。
「テーマからうまく題材が拾い出せないと、エッセイも今一つの出来になってしまいます。どうしたらいいですか?」
という質問が出てきます。

テーマがしっくり来ない場合は、テーマをさっさと離れて自由に好きなことを書いてもいいですし、毎月の教室内でのことであれば、「書くきっかけ」と割り切って、テーマとは少し違っても思い浮かんだことを書いてもいい、と答えています。

自由に好きなことを書くのはもちろん楽しいものですが、 テーマで書くことには、自由とは別の楽しさがあります。
テーマを掘り下げて、何かテーマに合うことはなかったかなとずっと考えていると、すっかり忘れていた思い出がふわっと浮かび上がってくることがあります。それは、懐かしいものであったり、逆に思い出したくないこともあったりしますが、自分の人生にあった出来事をもう一度思い返す機会が持てるのは楽しいことです。
同じテーマでも書き手によってまったく違う作品が生まれ、それを読み合う楽しさを味わうことができます。
「このテーマが、そのようなエッセイに仕上がるのか!」
という刺激を受けます。そのテーマで書いているからこそ感じる刺激です。

私がずっとテーマなしで書いてきたと言うと、
「じゃあ、どういうことを書いていたのですか?」
と質問されました。

もともと書きたいことがあって、エッセイ教室に入ったので(詳しくは「エッセイを書く理由~心のアルバム~」を参照ください)、しばらくはそのことばかり書いていました。
ほぼ書き尽くした後は、折々に感じたことを書いています。
「ということは、『最近』のことが多いのですね」
と言われ、たしかにそうだと思い当たりました。家族や身の回りの出来事など、その時その時に捉えた「最近のこと」を書いてきました。

仲間との勉強会ではテーマで書きます。すると、テーマに合う出来事はなかったかなと、記憶を掘り起こします。期せずして、昔の思い出が題材となり、過去を書くことになります。

テーマでは過去のことを取り上げ、自由に書くと最近のことが多くなる。おおまかにはそういう違いもあるようだと、気づきました。
ということは、テーマも自由も織り交ぜて書くと、すべてを網羅できそうですね。