小さな幸せ
毎朝6時過ぎに、夫と散歩に出る。
緊急事態宣言を受けて、夫もテレワークになり、このところずっと家に籠っている。心身のリフレッシュのため、人の出が少ない朝、30分ほど歩くことにした。
同じ道を散歩してもいいが、変化も少し欲しくて、右に歩き出してみたり、左に向かったりする。どこを歩こうかと悩む朝もあった。
しかし、最近は、迷わず右に行く。5、6分歩くと、住宅地の中に小さな緑地エリアが現れる。サクラやイチョウ、ユリノキなどの高木が何本かあり、そのどこかから、よく通る、澄んだ鳴き声が聞こえてくるのだ。
ホーホケキョ
最初に出会ったときは、練習の最終段階にいた。「ホー」がするりっと出れば、「ホケキョ」とすんなり続く。「ホー」がかすれると、「ケキョキョ」となる。
その声に惹かれて、毎朝まず右に向かって歩き出すようになった。透明感のある鳴き声が聞こえてくると、立ち止まって木を見上げる。夫も一緒になって、生い茂った葉から漏れてくる声の主を探す。姿を見かけると、それだけで心がはずむ。聞こえない朝もあって、その後の足取りが少しだけ重くなる。
電線に止まって鳴く瞬間を夫がタイミングよくビデオに収めた。再生してじっくり見ると、「ホー」のときは喉を細かく震わせている。「ホケキョ」では白いお腹を大きく揺らし、体全体を使って声を出していた。
毎朝、耳を傾けていたら、さまざまな鳴き声に気づくようになった。カラスでもスズメでもウグイスでもない鳥が、目にも飛び込んできた。
そんな朝を過ごすうちに、ヤマブキの黄色が影を潜め、ツツジの白や濃いピンクがどんどん存在感を増してきた。マスクの中が少し汗ばむ。いつの間にか4月が終わろうとしていた。