経年変化

「あら、あなた、まだブラウスをスカートの中に入れられるのね」
平成5年、ある集まりで、知り合いの年配女性にそう言われた。35歳の私は、どういう意味なのかピンとこなかったが、何か気になってずっと心に引っ掛かっていた。
その後、この言葉の意味を時間をかけて知ることとなる。体重は増えなくても、年齢と共に体形は徐々に変化していく。いつの間にか、ブラウスはスカートやパンツの上に出ていた。

平成12年に書いたエッセイに、「初めて自分の老化を感じた」と綴っている。洋裁を教える母にワンピースの仮縫いをしてもらっているとき、42歳の私は「前肩になったわね」と指摘された。背中の筋肉が落ちてきて丸くなり、肩が前方に出ているというのだ。文章は、
「別の世界の話と思っていた『老い』の領域に、後ろからドンと押されて入り込んだ気分だ」
と続く。合評では、その年齢で「老い」を使うのはダメ、老いはそんなものではない、という声が先輩諸氏から上がった。

やがて、私にも老いの真実がわかる時が来て、平成28年のエッセイには、
「今ならわかる。前肩は体の衰えだ。老いはさらにその先にある」
と書いている。自分の母親の老いていく姿を間近に見て実感したのだろう。

平成31年、右腕が上がりにくくなり、ストレッチ専門のトレーナーに相談した。
「腕の筋肉がなく、肩の筋肉に頼りすぎていますね。その動きを改善しましょう」
姿勢の悪さも指摘され、簡単な筋肉トレーニングを教えてもらった。60歳でも諦めることはありませんよと励まされた。
常に姿勢を意識すると、少しずつだが改善されてくる。このまま続ければ、前肩の頃よりいい姿勢になるかもと淡い期待が顔を出すが、ブラウスを中に、は無理と自覚している。


*「平成の思い出」というテーマで800字で書いたエッセイです。書き上げるまでの過程を、「今月の話題」に掲載しました。併せてご覧ください。