どんなテーマで書いても結末は同じ

 エッセイのテーマとして「包む」を与えられたなら、こう書くだろう。
――腕を大きく広げて、やさしく温かく包み込んでくれる。寄りかかる私を、後ろからしっかり支えてくれている。安心して身を任せているうちに、心地よい眠りに誘われ、いつの間にか時間が過ぎ去っていた。
 テーマが「誘惑」ならば、こう書こう。
――私はその誘惑にあらがうことができない。今日はすべき仕事があるから絶対に近寄ってはいけない、と自分に厳しく言い聞かせても、ちょっとだけなら大丈夫よと、私を甘やかす声が聞こえる。引き寄せられるように近づいてしまう。はっと目が覚めたときには、時間が過ぎ去った後だった。
 もし「ストレス」というテーマだったら、どんぴしゃり。
――その名は、「ストレスレス」。体にストレスがかからない、心のストレスを消し去るほどの快適さ、という意味のネーミングだろうか。その名の示すとおり、身を委ねると、いつも、いつの間にかうたた寝をしてしまい、時間が過ぎ去る。

 ゆったり座れるリクライニングの椅子がほしいと探していたのは、2年ほど前のこと。デパートで革張りの椅子に目が止まった。足の部分が木製のシンプルなデザインで、北欧製と聞いて納得した。
「ストレスレス」という商品名も気になって、勧められるまま座ってみた。オットマンに足を投げ出すと、椅子と自分が一体化して、その座り心地に夫も私も心を奪われた。背もたれが高く、首が疲れない。リクライニングは自分の好きな位置で自然に止まり、ほぼフラットな状態にまで倒すこともできる。腰の部分はしっかり支えられ、体に負担を感じない。即決だった。
 夫の体に合わせて大きめのサイズにしたため、私にはヘッドレストが少々高い。小さいほうも買おうかと話し合ったが、安い買い物ではないので、とりあえず一つだけで、使い勝手を試すことになった。
 快適。そのひと言につきる。昼間、家に一人のときは独占状態で、大好きなドラマを見たり、本を読んだり、ぼうっとしたり。ノートパソコンを持ってきてエッセイも書く。リクライニングを起こしてご飯を食べることもある。ところが、なぜか、いや気持ちがいいからなのだが、最後に行きつく先はいつもうたた寝。ふと気づくと、あっという間に小一時間が過ぎている。
 というわけで、この椅子については、どのように書いても結末は同じになってしまうのだった。
 ちなみに、もう1つ買うのはやめました。夫婦そろって居眠りしている姿は、あまり見られたものではないので。誰も見ていませんが。

*本作品は、拙著『あの日のスケッチ』に収載されています。
*このエッセイを書くにあたっての切り口については、今月の話題で触れています。併せてご覧ください。