青いねぎ

 東京の一般家庭で、 先まで青い細ねぎを使うようになったのはいつ頃からでしょうか。
 少なくとも、夫と結婚した当時、35年前には、細ねぎを家で使ったことはありませんでした。夫は福岡県出身。初めて夫の実家に行って台所の手伝いをしたとき、「吸い物に散らすから、ねぎを切って」と頼まれました。差し出されたねぎは、細くて頼りなくて、白い部分がわずか。私の知っている、白い部分が太くて長いねぎとは違いました。
 いつもは白い部分をメインに使うのに、この細いねぎはほとんどが青い……。はて、どこまで切ればいいのかしら。
 忙しく炊事をしている義母に聞くのは憚られました。この嫁はこんなこともわからない、と思われたくなかったのかもしれません。でも、どこまで切っていいのかわからず、真ん中あたりまで切って、先っぽのほうは捨ててしまいました。今から考えると顔から火が出ます。
 義母はそのときは何も言いませんでした。それからだいぶ経ってから、このねぎは先まで全部使うのだと教えてくれました。東京は違うんやろ?とやさしく。

 そのうち、東京でもいつの間にか細ねぎがスーパーに並ぶようになりました。
 先日、雑誌をめくっていたら、博多万能ねぎの物語が載っていました。福岡から飛行機で万能ねぎを送ることにより、鮮度を保ったまま東京に届けることができるようになったのは、1978年のことだそうです。 また、白ねぎが主流だった関東ではねぎの青いところは食べないという食文化の壁があり、それを破るために、青果市場やスーパーで試食会を開くなどのご苦労もあったとか。
 私が結婚したのは、空輸開始よりもう少しあとのことです。結婚前にそのスーパーの試食会に出合っていれば、失敗はなかったでしょう。とはいえ、食文化の違いを義母が温かく見守ってくれたことが、何よりうれしい出来事でした。