こんな感じで書いてます

『こんな感じで書いてます』(群ようこ著 新潮社 2023年9月)をご紹介します。

エッセイスト群(むれ)ようこさんの本は、書店でよく見かけます。いろいろな媒体でエッセイを連載していることも知っていましたが、きちんと読んだことはありませんでした。
その群さんの物書き生活を綴ったエッセイ集。「こんな感じで書いてます」というタイトルにも引かれて、手に取ってみました。

エッセイを書き始めたのは25歳、それから現在まで41年の間に140冊以上の本を書いてきたそうです。それだけの数の本を出してきたとなると、プロとはいえ、ネタが尽きることはなかったのでしょうか。本書はそんな私の疑問にも答えてくれました。

群さんがエッセイをどのように書いてきたか、どう感じながら書いていたのか。子ども時代から話は始まります。
小さい頃から本を読むのが好きだった。会社勤め中にエッセイを書くようになり、会社を辞めて物書き専業となる。男女雇用機会均等法の施行をはさんでの時代背景。書く方法も、手書きからワープロ、そしてパソコンへと変化。1年間だけ仕事を休んだとき、麻雀漬けだったというのもおもしろい。自分のエッセイをつまらないと言う人がいて当然と思うから、いちいち気にしない。
おしゃべりを聞いているような軽快な文章です。と同時に、自身の意見はきちんと書かれていて、周囲の状況をしっかり見て考えている方なのだと感じました。

群さんは、プロのエッセイストでありながら、自分はすきま産業だと言います。「王道を歩む作家の方々が、立派な道路を造っていくその脇の細道で、スコップでちまちまと土を掘り起こしている感じ」だそうです。その気持ちがあるから、かえって一生活者としての目線で日々の暮らしを見つめることができるのでしょうか。

ネタに関しては、「ネタの見つけ方?」「ネタ提供します」「ネタはどこから?」というタイトルの文章もありますが、それ以外の文章でも様々な箇所で触れています。
・机の前でじっとしていても何も浮かんでこない。散歩をしていると、次々に文章が浮かんでくるし、新しいネタにも合える。
・ネタは見つけようとして見つかるものではなく、向こうからやってきたものをキャッチするもの。物を作る人は他の人が見落としている部分を、さっとすくい取れる人。
・日々の積み重ねが大切。経験、読んだ本、聴いた音楽、見た絵画など、それらを体感したときの気持ち。引き出しの中身を充実させ、うまく引き出せれば、書くネタには困らなくなるだろう。
・頭の中には自分が経験したのに、忘れている記憶が詰まっているはずなので、それを引き出す作業が必要。思い出したくない記憶が出てくるかもしれないが、物書きとしてはそれを格好のネタと喜んで、文章化していけばいい。

こうしたネタのヒントについては、私自身も似たようなことを感じた経験はあります。周囲を漫然と見るのではなく、アンテナを張って、自分がおもしろいと感じることをキャッチする。それは意識しているつもりです。けれども、それらが詰まっているはずの宝箱から、どうやって引き出すかが、けっこう難しい。
群さんは、散歩しているとき、ぼやーっとしているときや編み物などの手仕事中などに、頭の引き出しに入っている様々な事柄がふっと浮かぶそうです。40年以上書き続けてきたエッセイストの言葉には重みと真実味があります。そういうものなのですね。