気になる言葉(1) 「やる」

あるエッセイ教室で披露された作品の中に、「やる」という動詞が頻繁に使われていました。「目標を立ててやっていこう」「今度やるときは」「私もやってみようかな」などなど。1つだけを取り出してみれば何の問題もありません。しかし、2000字の作品の中に数えてみたら17回も登場しているとなると、気になってきます。

「やる」という動詞にはいろいろな意味があります。「犬にえさをやる」という場合の与える意味、「こどもを大学にやる」という場合の目的(地)に行かせる意味などありますが、今回取り上げるのは「ある動作・行為をする」という意味で使われる「やる」です。

辞書には例文として、「宿題をやる」「ちょっと一杯やろう」「やるだけのことはやった」「その店は日曜でもやっている」などがあげられていて、この動詞の守備範囲の広さに気づきます。「する」よりも俗語的と書いてある辞書もありますが、「宿題をやる→する」と言い換えられますが、「その店は日曜でもやっている→している」とは言い換えられないので、「する」と同義というわけではないようです。

実際に「やる」はどのように使われているでしょうか。いくつかの作品から取り出してみました。
・クラス会をやるたびに感じることがある。
・営業の仕事をやっています。
・今年もコンクールをやるという連絡があった。
・親戚が幼稚園をやっている。
・ラジオをつけると、音楽番組をやっていた。
・どんな役をやりたいですか?
やった。ついに完成した。

こうしてみると、「やる」は便利な言葉ですね。いろいろな意味を含んでいるので、どの動詞を使うか迷ったときに、候補として上位に登場しそうです。
ただ、作品中に多すぎては、推敲の足りない文章と言われかねません。また、「やる」は口語的要素が強いため、セリフであればともかく地の文で多用すると、その使い方が気になる読み手は多いかもしれません。

他の動詞に置き換えるには、
(1)「する」という動詞に換えるだけでいい場合
(2)他の動詞で意味をはっきりさせたほうがいい場合
があります。文意に沿って、置き換えてみてください。もちろん、「やる」という動詞が一番しっくりくるときはそのままにします。

上記の例文の「やる」を他の動詞に置き換えてみました。
(1)「する」に換える
・クラス会をやる(→する)たびに感じることがある。
・営業の仕事をやって(→して)います。
(2)他の動詞に換える
・今年もコンクールをやる(→開催する)という連絡があった。
・親戚が幼稚園をやって(→経営して)いる。
・ラジオをつけると、音楽番組をやっていた(→を放送していた/が流れてきた)
(3)「やる」をそのまま使う
・どんな役をやりたいですか?
やった。ついに完成した。

どう書き換えるかは、その作品の内容や筆者の好みにもよりますので、一概には言えません。その場面に合った言い換えを考えてみてください。
「やる」が1つも使われていない作品もたくさんあります。意識せずに「やる」を多く使っている場合もあるでしょう。推敲の際に、ご自身の傾向を確認することをお勧めします。