エッセイの力 ~新しい世界を開く~

朝日新聞の生活欄に「ひととき」というコーナーがあります。
読者の投稿欄で、生活のひとこまから社会に対する疑問まで、幅広い内容の文章が寄せられます。500字以内という制約の中に、気持ちをどのように織り込むか、背景をどこまで書き込むかなどの難しさもあり、エッセイを書く者としては気になるコーナーです。また、日曜には「男のひといき」という男性の投稿欄があります。

2019年
5月19日
その「男のひといき」欄に、エッセイグループの先輩 河崎啓一さんの文章「『感謝離』ずっと夫婦」が掲載されました。
妻を亡くし、残された衣服の整理を始めたが、つらい。その胸の内を、「断捨離」という言葉から「感謝離」、そして「代謝離」という表現につなげ、妻への気持ちを綴った文章です。
89歳の男性が、妻への感謝や愛情をこれほど素直に書くとは、なんて素敵なことでしょう。どういうご夫婦だったか、どんな家庭を築かれたか、想像することができるような文章でした。

このエッセイの反響はたいへん大きかったようです。

6月15日 兵庫県西宮市のFMラジオ局の番組で朗読される
朝日新聞を通してラジオ局から、「ぜひ朗読させてほしい」と本人に連絡があり、取材も受けたそうです。番組では15分ほどかけて、朗読と共に人となりが紹介され、リクエスト曲も2曲流されました。

6月27日 朝日新聞生活欄に特集が組まれる
朝日新聞には、多くの反響が寄せられたそうです。特集では、紙面の半分以上を使って、その一部が掲載されました。家族の遺品を前にして、同じように思い悩んでいる人たちからの共感の声でした。
それだけではなく、河崎さん本人も写真入りで紹介されました。奥さんがよく着ていたセーターを手にして、にこやかに微笑んでいる写真です。残された衣服は感謝して手放し、同時に寂しさを吹っ切り前に進もう。その思いを表す言葉として、「感謝離」と「代謝離」が浮かんだそうです。

7月に入ってから、エッセイ仲間と一緒に河崎さんに会いに行ってきました。久しぶりでしたが、やさしいまなざし、そして楽しいお人柄は以前のままでした。
「妻が亡くなって寂しいけれど、ひといき欄に載って、新しい世界が広がったよ。この年になって、こんなことが起こるとは思っていなかった。妻が導いてくれたのだと思う」
という言葉が印象的でした。テレビ局の取材もくる予定だそうです。

エッセイを書くことによって、心を整理することができる。エッセイにはそういう力があります。今回はさらに、想像もしなかった新しい世界が広がって、元気も少し回復されたのではないでしょうか。これもまた、エッセイの力ですね。

ツイートでも
1人暮らしをしている社会人の息子にこの話をしたところ、「その文章、読んだことがある。たしか、ツイッターで・・・」と言うのです。遡って探してもらったところ、リツイートされてきたものを見せてくれました。9.5万件リツイートされていて、それが若い世代の息子のもとにも届いたようです。

さて、どういう文章?と、気になりますよね。
「『感謝離』ずっと夫婦」、どうぞお読みください。